2月20日 月刊安心新聞プラス

朝日新聞2019年2月15日17面:ブロックチェーン「信頼確保」に革命的技術 昨年1月に本コラムで取り上げた「仮想通貨」。その後、不正アクセスによる大量盗難事件の報じられたためか、いまだに毀誉褒貶が激しいようにも感じられる。しかし少なくとも、仮想通貨を成立させている「ブロックチェーン」という技術は、非常に可能性があるテクノロジーであり、私たちの社会を一変させるほどの潜在力を持っているといえる。そこで改めて、この技術について考えてみよう。
新しい技術が現れた時、私たちは自分の手持ちのイメージからその意味を類推し、理解しようと試みるものだ。かつて自動車が登場した時は、人々は馬車についての知識を受用した。実際、クーペやセダンといった言葉は、元々馬車の用語である。従って、その新技術について、たとえば有名なSF映画や小説などに、未来予想として描かれていば、人々ののみ込みは早いだろう。この点で、ブロックチェーンという技術は不利かもしれない。なぜなら、どんなSF作品もこの技術を見通していないかったからだ。「電子的な通貨」と言われれば、まだ想像がつく面もあるが、「分散型台帳技術」と言われても、何がすごいのか、直感的には分からないだろう。むしろこの技術は、別の角度から光を当てるのが理解への早道だと思われる。それは、私たちが「信頼」というものを、どうやって構築しているのか、という視点である。私たちは、まず、「よく知っているヒトやコト」を信頼する。たとえば、突然やってきて訪問販売員よりは、いつも使っているスーパーの店長を信頼する。また、生まれて初めて利用する外国の地下鉄には、不安を抱くこともあるだろうが、普段乗っている路線バスは安心だ。
しかし、初めて乗る旅先の地下鉄でも、信頼できる友人が同伴してくれるなら、安心感はぐっと増す。これは要するに、「信頼している人の判断を信頼する」ということに支えられているわけだ。科学的な知識への信頼や、企業に対する信頼なども、個々人が直接判断しているのではなく、たとえば「信頼できる先生が言っているのだから大丈夫」とか、「信頼できる伯父さんが勤めている会社だから安心だ」といった、「信頼の媒介者」によって成り立っているといえる。
インターネットが普及し、世界中が情報的に一つにつながった現在でも、見知らぬ人への「信頼」を担保する仕組みを作るのは難しい。やはり問題になるのは、売買のシーンである。「お金」を直接、電子的に送る簡単な方法がなかったのだ。そのため、従来のネットの世界では、クレジットカード会社や、電子決済サービス会社を間に挟むことで取引を行ってきた。最近、日本でも注目を集めている、いわゆる「スマホ決済」や、各種ポイントなども、結局は同じ仕組みである。要するに、「信頼の仲立ちをする企業」に対する信頼によって、成り立っているのだ。
今のところ、それで問題ないようにも見える。だが、これらの方法は、信頼を構築するために第三者の組織を使っているため、なんらかの形で取引には手数料が課せられる。また今後、より問題のみならず、時には人権が侵害されるリスクを伴うかもしれない。実際、先月、ポイントカード大手の「Tカード」の個人情報が、裁判所の令状なしに捜査機関に渡っていたとこが明らかになった。この問題は大きな議論になっているが、根本的には、「ポイント」という電子的な通貨が、特定企業の丸抱えのシステムによって運用されていることに原因がある。
さて、ブロックチェーンという技術は、このような問題を一気に解決する可能性を秘めている。技術的な詳細は省くが、これは要するに誰もがアクセスできる「台帳」である。参加者は平等の資格を持ち、誰かが勝手に書き換えることは「原理的に」不可能であるように、暗号技術などによって担保されている。情報が勝手に誰かの元にだけ集まるということも、その使用履歴は、現金の場合、その使用履歴は、政府であってもトレースできないのと似ている。
しかも台帳には何を書き込んでも良い。お金だけでなく、特許や不動産などさまざまな権利、また遺言や私人同士の契約など、何でも良い。重要なのは、「信頼を担保するための媒介者」が要らないという点だ。日銀が信頼を支える「通貨」が典型例だが、さまざまな証明や権利は、基本的には政府機関への信頼によって、確保されてきた。しかし、上手にプログラムすれば、いちいちそのような「仲立ち」を置く必要がなくなるのだ。実際、東欧のエストニアでは、ブロックチェーンを使って行政機能をまるごと電子化・自動化するための実験が始まっている。世界史を振り返ってみれば、信頼を担保するために、さまざまな制度や仕組みが工夫されてきた。ブロックチェーンが、そこに革命的な変化をもたらすとすれば、まさに経営学者クリステンセンの言う「破壊的イノベーション」そのものだろう。
なかなかイメージしにくい技術だが、少なくとも仮想通貨は、その最初の応用に過ぎないことは確かだ。今後、本格的に動きだすと、各方面に影響が出るかもしれない。この技術を社会全体でどう育てていくか、本格的に考え始めるばきだろう。

 

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