2月2日 情報源に国境線

日本経済新聞2019年1月27日1面:曇るネットの自由、経済圏分立も データ資源が自由に行き交うネット空間に「国境」が引かれ始めた。各国の個人情報保護規制や国際政治の動きを受け、大手IT(情報技術)企業が重要情報の保管場所を変更。欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)で混迷する英国や監視社会化が数ム中国からデータを遠ざける。経済圏が分立し、世界のデータ流通が滞る懸念が出ている。ネットサービスが分断し企業は対応コスト増に苦しみかねない。安倍晋三首相が世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で円滑なデータ流通の国際ルール作りを提唱するなど、懸念解消に向けた声も高まる。
拠点移す企業続々 アイルランドはデータセンターの建設ラッシュだ。米フェイスブックは2018年秋、首都ダブリン郊外にのべ床面積約6万平方メ㍍の巨大施設を完成。早くも数百億円規模の拡張工事に着手した。グーグルやアマゾン・ドット・コム、マイクロソフトも既存施設の増強を決定。同国のデータセンター建設投資は19年に60億ユーロ(7500億円)超と16年の2倍を見込む。
特需はブレグジットの余波だ。多くのIT大手はロンドンを欧州のデータ拠点の軸とし、他の欧州諸国とデータをやりとりして顧客情報の分析などを行う。だが英国が離脱するとEUとの規制にズレが生じ、データ移動の手間やコストがかかさむ恐れが出てきた。EUは18年、域外への個人情報の移転を原則禁じる一般データ保護規則(GDPR)を施行。英国が離脱すれば、他のEU諸国からデータを持ち出すために利用者の同意を取り直すか、特別な契約を結ぶことなどが必要になる。こうした煩雑さを避け、EU内のアイルランドにデータ連携の軸を移す企業が増えた。同国政府産業開発庁のシェーン・ノーランド上級副社長は「複数社が『英国でなく貴国を選ぶ』という」と話す。企業のデータセンターは通信速度を保つため、大市場の近くに置くのが常識だった。最近は地域を越えてデータをやりとりする機会が増え、各国の規制内容も重要な判断基準になる。さらに国家体制の違いも企業のデータ戦略に影響する。
「間違った判断だ」。香港の個人情報保護機関のトップ、ステファン・ウォン氏は18年秋、悔しさをにじませた。フェイスブックのアアジア初の大型データセンター誘致に失敗。代わりにシンガポールが選ばれた。同社の決定理由は不明だが、監視社会化する中国の影響を嫌ったとの観測がある。ウォン氏は「香港の法制は中国本土と違う」と強調。”中国リスク”の懸念を他社に広げまいとする。
脱EUで英孤立/中ロにリスク 中国は国家ぐるみのデータ収集を進め、米企業などが警戒を強める。元グーグル最高経営責任者(CEO)のエリック・シュミット氏は18年9月、「インターネットは米主導と中国主導の2つに分かれる」と予言。米IT大手のロビー団体、情報技術産業協議会のジョン・ミラー公共政策部長も「欧米やアジアなどで(中国とは別の)経済圏を発展させたい」と話す。
 対応コスト重荷 経済圏の細分化はさらに進みかねない。偽ニュースで米大統領選に介入するなどデータ悪用が疑われるロシアにも、神経をとがらせる動きがみられるからだ。07年にロシアから大規模サイバー攻撃を受けたエストニアは18年、ルクセンブルクに「データ大使館」を設置。データ防衛のため、国民情報を国外に保存する。ロシアの情報セキュリティー大手、カスペルスキー研究所は18年、自社ソフトのデータをスイスに移転。自社につきまとう「ロシアのスパイ活動に協力」との疑惑の払拭を狙う。中立国のスイスでデータ監査を受け「適正な取り扱い」のお墨付きを得ようとする。
複数のデータ経済圏の出現は、企業のデータ管理やネットサービスの分断を招き、重い対応コストは成長の足かせになり得る。安倍晋三首相はダボス会議で23日、企業や消費者が生む膨大なデータについて「自由に国境をまたげるようにしたいといけない」などと演説。世界貿易機構(WTO)加盟国によるデータ流通のルール作りを提案した。十分なデータ保護と円滑な流通を両立する枠組みを構築できるか、各国や企業の力が問われる。(兼松雄一郎、寺井浩介)

 

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