2月18日 私、お坊さんになる

朝日新聞2018年2月11日30面:おととしの6月。岩手県陸前高田市にある金剛寺の住職、小林信雄さん(57)と浩子さん(54)夫婦は、一通の手紙を受け取った。岩手大工学部で化学を学ぶ、娘の真子さん(21)からだ。表紙にはサインペンで、「お母さん、お父さんへ 特にお母さんかな~」と書いてある。1枚めくると、大学のリポート用紙3枚にびっしり、ある思いがつづられていた。
岩手大を辞め、東京の大正大の仏教学部に移り、僧侶の資格を取りたいー。大学3年になり、同級生たちは研究や就職の夢を語り始めている。「私はいやいや学校に行って、目的もなく(ごめん!)何をやっているんだろう‥と焦った」「私も皆のように目標、願望をもって学びたい」転機は、大好きだった祖父の死だった。大学2年の秋。葬儀から火葬と進むうちに、現実を受け入れていった。
お坊さんは、遺族のつらさを和らげてくれる。そんな職業と初めて意識した。それまで女性の自分が後を継ぐとは考えたこともなかった。「我がまま言ってることについては、本当に申し訳ない!」。小さな文字に強い気持ちがにじんでいた。 父の信雄さんは、こどもには一番やりたいことをやってほしい、と思ってきた。息子は医大に進んでいる。娘の思いも自然に受け止めた。
ただ、母の浩子さんはすぐに認めることができなかった。道を変えるのは卒業してからでもいいのに‥。顔を突き合わせて話したい。娘が住む盛岡へ向かった。子供のころからわがままを言わなかった娘が、「いまじゃなきゃだめなの」と譲らない。涙ぐみながら、化学は自分に向いていない、と言う。ああ、娘の決断はこんなにも固いのか。親の考えを押し付けるわけにもいかないと思い知らされた。
編入試験はその年の秋。前日、東京へ向かう娘に、浩子さんは短いメールを送った。今晩出発だよね。明日、いい日になりますように」昨春、真子さんは大正大の3年に編入した。金剛寺は7年前の津波で破壊され、信雄さんは再建に向けて奔走してきた。その本堂が、秋に完成した。今年の元旦。高台にある金剛寺の護摩堂に、父と娘は向かった。父が護摩をたく。娘はぎこちなく、火箸で炎の勢いを加減する。新しい年の陽光が、お堂に降り注いでいた。(磯村健太郎)

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