2月17日 貿易戦争デフレ圧力招く 

日本経済新聞2019年2月10日1面:鋼材や繊維原料 流れ滞る 米中両国の貿易戦争の影響で産業資材への値下がり圧力が強まっている。景気減速を警戒した中国の投資や鋼材など供給過剰の兆しが出ているためだ。繊維原料や大豆も過剰感が根強い。1930年代の保護主義の台頭は商品価格の低迷を招き、大恐慌の一因となった。米中両国は3月1日を期限に貿易交渉を進める。打開策で合意できなければ価格の下落が多くの商品に広がり、世界景気を腰折れさせるリスクがまる。
家電や建材の材料になる熱延コイル(広幅帯鋼)のアジア向け輸出価格は1㌧550㌦前後。600㌦超だった2018年秋から1割安い。中国の旧正月(春節)前に一部で成約もみられたが、ある高炉大手の営業担当者は「価格がいつ下げ止まるか見通せない」と困惑する。背景には中国製熱延コイルの値下がりがある。輸出価格は1月下旬時点で1㌧467㌦前後と昨夏と比べ2割安い。米トランプ政権が仕掛ける貿易戦争で、中国などの鉄鋼製品は18年3月から25%の追加関税がかかった。米貿易統計によると、中国から米国への輸出(18年1~11月)は前年比に比べ14%減った。
 世界で伸び悩み 貿易戦争による景気悪化への不安から、中国国内で設備投資も減速。内需が息切れ気味だ。世界鉄鋼協会は19年の鉄鋼の世界消費を前年比1.4%増の16億8120万㌧と推計。中国需要の伸び悩みを映し、18年の伸び率(3.9%)を下回る見通しだ。だぶついの目安になる粗鋼生産量と製品消費量の差「需要ギャップ」は18年、前の年より12%多い約1億5千万㌧に達した。中国の過剰設備の廃棄や資産価格の下落などで格差はいったん縮まったものの、直近で最も低い16年に比べ3割以上拡大した。中国などの増産が影響した。19年も鋼鉄業界では「世界的な減産による需要ギャップの縮小は考えにくい」との声が聞かれる。中国で生産調整の観測が出る一方、米国ではUSスチールが高炉を再稼働するなど、増産が目立つ。
米報道によると、ニューコアなどの設備増強で米国の鉄鋼生産能力は貿易戦争前の水準に比べ1600万㌧(18%)増える見込み。主な消費先の自動車販売は頭打ちで、供給過剰の気配は米国でも表れ始めた。昨年7月に1㌧1千㌦超に上昇した熱延コイルは約760㌦に下がった。素材のだぶつきを前に日本企業も対応を迫られる。「12年以来の減産が必要かもしれない」。ナイロン繊維原料の国内最大手、宇部興産の社内では年明け以降こんな緊張感が広がっている。繊維原料のカプロラクタムのアジアへの輸出価格が需給緩和で急落した。1月下旬のスポット(随意契約)価格は1㌧1670㌦。前月比で15%安い。
ナイロン繊維の工場が集中する中国は世界の原料需要の半分を占める。米中摩擦で中国の景気が冷え込み、中国の繊維メーカーなどは衣料品の需要減を想定。「最低限の原料在庫しか持ちたがらない」(宇部興産)という。中長期的な需要の伸びを見込んだ中国での設備増強も重なった。日本の生産能力の約3分の1にあたる10万㌧以上の規模の工場が新たに稼働。余剰感が強まっている。
大豆も同様だ。米農務省がまとめた19年秋時点の世界の在庫見通しは1億672万㌧。前年を9%上回るとみる。米国産は中国の報復関税で貿易量が細った。欧州への輸出拡大で補えず、在庫が積み上がる。中国需要の取り込みへブラジルは増産を目指す。「例年に比べ作付けペースが速かった」(資源・食糧問題研究所の柴田明夫代表)。国際価格は前年同期を下回る。
 輸出細り経済縮小 各国が得意とするモノの生産に特化し、それ以外の商品は輸入で調達すればより多くの利益が得られる。英経済学者デビッド・リカードは19世紀、「比較優位」の考え方を基に自由貿易の長所を提示。世界で受け入れられ、経済発展に寄与してきた。この秩序を壊したのが1930年代以降の保護主義だ。不況に陥った米国で農作品など幅広い輸入品に高関税を課す「スムート・ホーリー法」が成立。英国も関税を引き上げるなど、自国産業を守るため世界各国が軒並み貿易制限にかじを切った。輸出の低迷を招き、世界大恐慌を深刻化させたとの指摘もある。
今のところ大恐慌時ほどの混乱が起きているわけではないが「中国の過剰生産や過剰在庫が解消されないなか、中期的には景気のダウンサイドリスクが強まる可能性がある」(BNPパリバ証券の河野龍太郎氏)。貿易制限の長期化は供給過剰をさらに進め、デフレ圧力も強まる。あと20日はどに迫る期限内に中国との協議がまとまらなければ、米国は追加関税をさらに引き上げる構えだ。世界景気を揺さぶる「いつか来た道」の再来になりかねない。(岡森章男、飯島圭太郎)

 

 

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