2月15日 オトナになった女子へ 益田ミリ

朝日新聞2019年2月8日21面:ガンバレ、ワタシ・・  インフルエンザにかかる。かれこれ20年ぶりである。「A型です」お医者さんが椅子をくりとしながら言ったときの口調は感じがよかった。なにがどうとは説明しにくいが、感じがいいとはそういうものである。その声には温かみがあった。診察室の前には検査待ちの人が10人ほどいた。総じてつらそうだった。いかにも出勤前のスーツ姿の男性がいた。インフルエンザと診断されたら帰宅で、そうじゃなければ出勤するのだろう。たとえ普通の風邪だったとしても、今日はゆっくり休ませてあげたい。そんな横顔だった。若くてオシャレな女性もいた。長い髪をくるくるっとお団子にまとめ、真っ白のコートにワイドパンツ。違和感がある。なんだろう? なんだっけ?
ハッと気づく。スマホを手にしないで座っている若者を久しぶりに見たのだ。彼女もまた静かにうつむいていた。大人ばかりだった。そして、みなひとりだった。こういうとき、子供なら親が付き添ってくれて、「横になってもいいよ」と膝枕してもらっているところである。しかし、われわれ大人軍団は、ひとりうつむいて耐えぬばならず、それは耐える練習のようにも思えた。いつの日か自分の人生を終えるとき、一緒についてきてくれる人は誰もいないのである。
病院を出てのろのろと家に向かった。花屋の店先のかわいい鉢植えも、こんな日は他人ごとである。とはいえ、行きよりも帰りのほうが気持ちが楽なのは、治るまでの道筋が見えた安堵感であろう。高熱は2日間ほどつづいた。あまりのつらさに、布団の中でひとりごと。「ガンバレ、ガンバレ、ワタシ・・」
言ってから自分のけなげさに泣けてきた。泣けてきた理由は他にもあった。インフルエンザ中に誕生日を迎えるのである。一体、誰からの、どんなプレゼントなのだ? そんなあれこれを乗り越え、今、パソコンの前に座っている。まだ数日は自宅待機の身であるが、ウソのようにケロリとしている。
(イラストレーター)

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