17日 寂聴 残された日々

朝日新聞2017年7月13日34面:25ほおずき市から 今年も、東京の親しい永井良樹様、仁子様ご夫婦から、浅草寺のほおずき市(7月9、10日)の一鉢を御恵送頂いた。朝早く、浅草寺に出かけ、人出にまじって、あれこれと選び、それを手に提げて帰ってくる、今やよほどの粋人でなければつづけない買い物である。
市は結構人がこんでいて、粋な浴衣姿で客呼びをしている売り子の大きな声にうながされ、好みの鉢を念入りに選びだしている人もせり合っている。市にはつきものの、売り子の景気のいいかけ声も、毎年のことながらなつかしい。77年も昔、東京女子大に入学して以来、私は毎年、ほおずき市に出かけていた。寝坊のくせに、その朝は、しっかり目覚ましをかけて早起きした。
それでも浅草につくと、もう市のあたりは人でいっぱいになっている。買って帰ったほおずきが夏の朝、次第に色づいて真っ赤な実を包んだ時のうれしさは格別であった。
ほおずきの鉢にはびいどろの風鈴がおまけについていて、一夏中、窓際に吊るした風鈴からおだやかでやさしい音が聞こえるのは、まさに梵音(ぼんのん)と呼びたい爽やかな気持ちがする。ほおずきの実を飲み込めば、大人は癪(しゃく)を断ち、子供はおなかの病気が治るといわれていたが、子供の私は専らほおずきの実をおもちゃにし遊んだ。見た目は愛らしいが、強く扱えばすぐこわれるもろさが尊いようで、掌にやさしく包み込んでいた感覚を、今でもほのかに思いだすことができる。
浅草寺「四万六千日」の御利益 西荻窪の下宿にいた頃、独り暮らしの家主の御隠居のきんさんは、浅草詣りに熱心で、功徳日には、雨が降ろうが風が吹こうが、必ず詣っていた。功徳日とは、その日詣れば、一日で100日分や4千日分の功徳が得られるというものであった。中でも7月10日は最大のもので、一日で四万六千日詣ったことになるといって、いそいそ出かけていた。「しまんろくせんにち」と早口に言ったきんさんの、歌うような口調がなつかしい。
この1年、私は大病しても必ずよみがえったのは、これらのほおずきの御利益だろうか。寂庵も、岩手の天台寺も、御本尊は浅草寺と同じく聖観音さまである。これも不思議な仏縁であろうか。

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