14日 負動産時代 売値「マイナス価格」

朝日新聞2017年8月12日2面:リゾート地バブル一転 相続人のお荷物に 1990年前後のバブル期、全国のリゾート地は別荘やマンションの開発・分譲ラッシュに沸き、宅地開発の波も都市郊外へと広がっていった。いまや人口減少を背景に、地方や都市部の郊外では地価は下がる一方。ただ同然でも買い手がつかず、お金を支払ってまで処分したい物件が出てくるなど、不動産の「負動産化」が進んでいる。
新潟県長岡市の男性(61)のもとに、不動産業者からダイレクトメール(DM)が舞い込んできたのは2016年夏のことだ。「市場性のない物件→処分費用が必要となりますが『買取』します」 同県湯沢町のワンルームマンション(約20平方メートール)を持つ男性は、業者に電話をかけてみた。すると電話口でこう言われた。「売却には120万円ほどかかります」所有者がお金を支払って物件を引き渡す「マイナス価格」での買い取り提案だった。男性に迷いはなかった。向こう3年分のマンション管理費や事務手数料などとして約115万円を振り込み、物件を手放した。
男性の兄が15年に亡くなり、相続した物件だ。国内有数のリゾート地にあるとはいえ、男性自身は長岡市に自宅マンションお持っており、スキーにもリゾート地にも興味はなかった。空き部屋にしていても、管理費や修繕積立金が約3万円かかることは兄が亡くなってから知った。負担がいつまで続くか分からない不安から、すぐに売りに出した。最初の売値は40万円。値下げ交渉にはいくらでも応じるつもりだったが、1年たって電話の問い合わせが1回あっただけで、見学者はゼロだった。
業者集中買い取り 管理費滞納のケースも そこに舞い込んだDMは、男性にとって「渡りに船」だった。「兄の残した面倒の後始末はすべてできた。肩の荷が下りました」引き取られた物件はどうなるか。リゾート地を中心に物件を続々と引き取っている大阪府の不動産業者を、記者が訪ねた。業者幹部の説明によると、物件にはプラスの価格を付けた上で、当面の管理費や所有権の移転登記にかかる費用などを所有者側に請求するため、実質マイナス価格になる。こうしたビジネスを始めたのは14年10月ごろ。これまでに約1千件を引き取り、うちリゾートマンションは250件ほどになるという。
もともとシニア世代向けの健康事業などを手がけていたところ、不要な物件を抱え、子に負担を残したくないと悩む高齢者が多いと気づいた。今は、リゾート物件を持つ所有者の情報を登記簿からデーターベース化し、営業をかけている。「売れない物件」をかき集めてどうするのか。この業者のサイトには「1戸10万円」などでの売出し物件がずらり。これまでに180件ほど販売したという。幹部は「個人が売り出してもなかなか売れないが、同じエリアに何百戸も所有して売り出せば可能性は高まる。売れるのなら買い替えたいというニーズも取り込みやすい」と話す。
一方、手放された物件を多く抱えるマンションでは別の問題が起きている。湯沢町にあるマンション管理組合によると、この業者に渡った部屋は、管理費の支払いが滞っているという。業者は当面の管理費名目で元の所有者からお金を取りながら、払っていないことになる。業者幹部に尋ねると、滞納があることを認めた上で「マンションをよりよくする提案をしたのに、管理組合が聞く耳を持ってくれない場合、管理費を支払わないで交渉するケースがある」と説明する。
マンション管理組合の役員の一人は「滞納が増えれば管理は成り立たなくなる。次々と物件を買う狙いも分からない」と警戒している。(北川慧一、松浦新)
解説 人口減・二極化・・・制度見直しを 売るに売れない「負動産」を、お金を払ってでも処分したいという動きがでてきた。かつて土地は、持っているだけで値上りする大切な「資産」だったが、いまや持っているだけで税金や管理費がのしかかる「お荷物」だと感じる人が増えている。五輪を控えた東京など大都市の都心部の不動産市場は活況だが、リゾート地や地方都市は地価の下落が止まらない。国土交通省の住宅地の公示価格を2011年を100とした指数でみると、東京、大阪、名古屋の3大都市圏が高止まりしているのに対し、地方圏は90.8と10ポイント近く下落した。
都心部でも、駅に近い中心街と郊外で二極化が進む。人口増加期は宅地が郊外に広がったが、若い世代は都心への回帰志向が強い。このため郊外では、住居者が減って修繕もままならない老朽マンションや、相続登記されず所有者不明になっている土地が増え始めている。
大量の人が都会に流れ込んだ「団塊の世代」は25年には全員が75歳以上となり、近い将来には「大相続時代」がやってくる。有識者でつくる所有者不明土地問題研究会(座長・増田寛也元総務相)の推計では、相続未登記などで所有者不明になっている可能性がある戸地の総面積は、九州より広い約410万ヘクタール。政府は、所有者不明の土地を公的事業に限って利用しやすくする新たな法整備などを検討している。
ただ、「負動産」の当事者たちにとっては、固定資産税や登録免許税の負担の重さや、不動産取引の停滞の方が深刻な問題だ。価値が上がり続けるという「土地神話」を前提につくられた税制や不動産の登記制度を抜本的に見直そうという動きは鈍い。土地問題に詳しい東京財団の吉原祥子氏は「価値が低下した行き場のない土地の情報をどう共有し、誰がどのように管理と権利の保全をしていくのか、包括的な議論が必要だ」と指摘する。(大津智義)

朝日新聞ASAの伸光堂西部販売 森林文化協会

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