12月5日 池上彰の新聞ななめ読み ゴーン前会長逮捕

朝日新聞2018年11月30日15面:取材源どう表現する? 日産自動車のカルロス・ゴーン会長(当時)が東京地検特捜部に逮捕されたニュースには驚きました。驚きながらも、新聞各紙を読み比べてみると、朝日新聞が取材で先行していたことがわかります。逮捕を伝える11月20日付朝刊の1面記事だけを読んだだけではわかりませんが、社会面でわかります。35面に「カルロス・ゴーン会長が乗っていたとみられる飛行機」の写真と、「東京地検特捜部が捜査に入った日産本社」の説明つきの写真が掲載されているからです。さらに記事には、こうあります。<羽田空港の滑走路に、ジェット機が降りたのは午後4時35分ごろ。機体のエンジン部分には「NISSAN」の社名に似た記号「N155AN」が黒い文字でプリントアウトされていた。特捜部は着陸をひそかに、だが、万全の態勢で待ち構えていた・・> また、日産本社に関しては、次のような記事があります。<午後5時前、スーツ姿の係官とみられる男性ら10人超が横浜市西区の日産自動車グローバル本社の総合受付に現れた。多くの係官がガラス張りの壁際に並び、1人の係官が受付の女性とやりとりをする>
ゴーン会長の自宅前にも朝日の記者が張り込んでいたようです。<ゴーン会長の自宅にも捜査が入った。東京港区元麻布1丁目の閑静な住宅街の高層マンション。午後5時10分ごろ、係官とみられる男女4人の姿があった。マンションのロビーに待機し携帯電話で連絡を取るなどした後、上の階へと向かった。午後5時半過ぎにはカメラを持った報道陣が次々と現れ、通行人らがけげんそうにのぞいていた>
これらの描写で、東京地検はゴーン会長が羽田空港に降りたところで同行を求めると共に、それを確認してから、日産本社や自宅の家宅捜査に入ったことがわかります。「午後5時半過ぎにはカメラを持った報道陣が次々と現れ」と書き、さりげなく「朝日新聞記者は、前から見張っていたんだぞ」とアピールしています。取材で先行したことを誇っているのです。そんな思いは、読者には伝わらないでしょうが、ライバル社の記者は、この部分を読んで悔しがるというわけです。
ここまでは先行していた朝日ですが、当然ながら他社も追いかけてきます。以降、熾烈な取材合戦が繰り広げられます。そこで問題なのは、取材源をどう表現するかです。たとえば同月26日付朝刊の1面で、朝日はこう書きます。<関係者によると、ゴーン会長の報酬は、実際には年約20億円だったのに、報告書への記載は約10億円にとどめる一方、差額の10億円は別の名目で毎年蓄積し、退任後に受け取る仕組みになっていた> さて、ここで出てくる「関係者」とは誰なのか。これが22日付夕刊には「日産関係者の話でわかった」という表現があります。日産からの情報を「日産関係者」と明記するのであれば、ただ「関係者」とあった場合は、東京地検特捜部からの情報なのでしょうか。そこがはっきりしない記事なのです。
当然のことながら、東京地検特捜部の検事たちにも守秘義務があります。記者の取材に、ペラペラとしゃべってくれるはずはありません。地方の複数の検察庁での取材経験がある私にも、その苦労はわかります。もし特捜部から得た情報を「東京地検特捜部の調べによると・・」などと書くと、東京地検から、「我々は発表していない。勝手なことを書くな」という文句が出そうです。そこで「関係者」とぼかした表現をしておけば無難でしょう。
しかし、「関係者によると・・」という書き方に慣れてしまうと、取材が安易に流れる危険があります。取材源が漠然としてしまい、記事が正確かどうか、記者の上司などがチェックできなくなる可能性があるからです。取材源は守りながら、でも安易な「関係者」の表現に寄りかからない記事の書き方を期待します。
◇東京本社の最終版を基にしています。

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