12月2日 パラダイス文書

朝日新聞2017年11月26日7面:影の案内人① 島に2時間戻った4.6億円 法律事務所「アップルビー」の提案に従って、ジェット機購入の際、巨額の付加価値税(消費税)の還付を受けたF1レーサー、ルイス・ハミルトン選手。パラダイス文書の中に、ジェット機の初飛行の際の「旅程表」があった。
2013年1月20日。ハミルトン選手は米人気歌手のガールフレンドと2人でジェット機に乗り込んだ。旅程には、少し不可解な点がある。米国からカナダ経由で向かう先はロンドン。だが2人はその前に、ロンドンから420キロ北西の英王室属領マン島に立ち寄る。マン島の滞在時間はたった1時間55分。いったい何が目的か。旅程表をながめるだけではわからない。 「こちらの提案する計画を添付しました」出発前、法律事務所「アップルビー」は、世界4大会計事務所の一つ「アーンスト・アンド・ヤング」とチームを組み、メールで何度も議論を重ねていた。
焦点はひとつ。ハミルトン選手が、いかに税金を納めずにすむかー。購入されたジェット機は、企業や国のトップにも人気の「ボンバルディア・チャレンジャー605」。ハミルトン選手は機体を真っ赤に塗装し、アルマーニ製のカーテンをつけた。こうした18カ所の改造を加え、総額は2680万ドル(20億円)に上った。
納入は12年末。英領ガーンジー島の会社名義で購入した。ただ、ジェット機を欧州連合(EU)内にそのまま持ち込むと、億単位の税金がかかる。アップルビーから送られた「計画」はこう説く。「飛行機がEU内で自由に飛ぶには、輸入の際に20%の消費税を払わなければなりません」「マン島に税金対策の会社をつくり、その会社を通じて飛行機を英国にリースする形をとれば、税金が返ってきます」マン島は、EU課税ルールの適用が緩いことで知られる場所だ。提案書には、こんなアドバイスが記されていた。「飛行機はマン島に物理的に立ち寄る必要があります。通常、ほんの2時間もかかりません」
稼ぎは富豪からの手数料 ハミルトン選手は、マン島に2時間足らず滞在するだけで、本来は払うべきだった消費税330万ポンド(4.6億円)を、すべて取り戻すことに成功した。見返りに、どれくらいの費用を払ったのか。提案書に記された見積もりの一部をみてみる。▽初期費用 約1万6千ポンド(225万円) ▽年間費用 1万2千ポンド(170万円) 追加の依頼は時給4万円前後で請け負うともある。百万円単位の費用も、億単位の税逃れができるなら安いものだろう。
タックスヘイブン(総勢回避地)に拠点を構えたプロの法律家が会計のプロとタッグを組み、「合法」を盾にした強気のセールストークで富裕層を誘い込む。「ウィンウィン」の関係を築き、多額の手数料で利益を稼ぐー。これこそが、アップルビーのビジネスモデルだ。
「楽園」支える金融業 アップルビーの創業地、北大西洋の英領バミューダ諸島を10月に訪ねた。ピンク色の砂が有名なビーチでは、水着姿の観光客がつくろうでいた。海には無数のクルーズが浮かぶ。中心都市ハミルトンの港から歩いて5分ほど。政府や警察の庁舎も並ぶ「一等地」に法律事務所はあった。ガラス張りの建物を指しながら、地元住民らに声をかけてみた。「何の会社か、知っていますか?」
30分ほどで社名を言えたのは1人だけ。業務内容は誰も答えられなかった。表向きは観光業が盛んな「楽園」だが、島の経済規模に占める割合は2割弱。7割を占めるのは国際金融ビジネスだが、その実態はあまり知られていない。
パラダイス文書を元に、水面下に潜むタックスヘイブンの実態に迫る連載。第1部「影の案内人」では、税逃れを手助けするプロの法律家集団の実態を追う。

朝日新聞ASAの伸光堂西部販売 森林文化協会

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