12月2日 「東京は820円」実習生は島を出た

朝日新聞2018年11月26日1面:鹿児島県の沖永良部島は花の栽培が主力産業。お彼岸を控えた9月中旬、サトウキビ畑の中にある農家ではベトナム人の技能実習生たちが黙々と、黄色いソリダゴの花の出荷作業をしていた。のどかな風景だが、農家の女性はこう話す。「実習生がSIMカードを買ったら、おしまい」実習生たちが母国から持って来る携帯電話は、事務所などWiーFiがある場所でないと使えない。島外でも携帯電話として自由に使うためには、SIMカードが必要だ。
今夏、1人の実習生がネット通販でSIMカードを買った。我慢強く、仕事を覚えるのも早いと目をかけていた男子だった。その数日後、「体にブツブツができたので休みたい」と言われた。病院で点滴を打って帰ったが、いつの間にかいなくなった。歩いて15分ほどの港から、沖縄行きの船に乗ったようだ。
「親身に病院に連れていった日に逃げられちゃって」と話す女性は「でも、仕方がない」と続けた。「島には何もないから。あの子たちは『日本』に憧れてきてるんだし。逃げた子がメールしてきたり、楽しそうにしている写真をSNSで見たりしたら、誰だって都会に行きたくなる」沖永良部島は10年ほど前から人が集まらなくなり、技能実習性に頼るようになった。人口1万2千人の島に、今は100人以上の実習生がいるという。女性がこれまで受け入れた30人の実習生のうち、5人が失踪した。近隣の農家からも失踪は相次ぐ。実習生が逃げ出す理由の一つは、賃金格差だ。女性は7年前、よく働いてくれた中国人実習生の帰国前の思いで作りのため、一緒に東京ディズニーランドに旅行した。同じ飛行機には、別の中国人実習生らしい女性が乗っていたが、大きなマスクをかけていて、顔がよく分からなかった。機内で自分のところの実習生がささやいた。「お母さん、あの子、おかしい。トイレで『東京は820円、東京は820円』って言われたよ。『島に戻らないかもしれない』って」当時の東京の最低賃金は821円で、鹿児島県は735円だった。羽田空港の出口で見失った彼女は、失踪した。一緒にお茶を飲んでおしゃべりしたこともある、隣の花農家の実習生だと気づいたのは。その後だった。(堀内京子)
◇出入国管理法の改正案の国会審議を通じて、技能実習生制度に注目が集まっている。日本の技術を海外に広める名目の制度だが、実質的には労働力の提供に用いられ、技能実習生は増加の一途。政府は実習生が新在留資格「特定技能」へ移行し、日本で働き続けることで人手不足の解消につながると期待する。しかし、相次ぐ実習生の失踪からは、制度の矛盾や新在留資格の課題が浮かぶ。


31面:実習生「稼ぎたくて」東京へ 雇い主「良い人材 資格外と知らず」 東京都港区の繁華街にある和食店。木調の内装で明るい店内には琴のBGMが流れ、厨房では白い割烹着姿の店員が食材をさばく。時に行列ができる人気店だ。6日、ここで働くミャンマー人の男女6人が警視庁に逮捕された。在留資格外の活動をしたという出入国管理法違反の疑いで、系列店なども含めると、この日の逮捕者は9人に上った。警視庁によると、24~32歳の9人は全員、技能実習生として来日した。福井県の設備会社、静岡県の加工会社、香川県の農家、北九州市の製造会社、大分県の木材会社・・。各地で働いていたが、昨年12月から今年7月にかけて逃げ出し、東京に集まった。8人は難民申請中だった。逮捕された1人は埼玉県川口市の建設会社でエアコンの設置作業をしていたが、5月下旬に逃げたという。調べには「日本は稼げると聞いて来日したが、同僚から嫌がらせを受けた」と供述。他の人も「お金を稼ぎたくて技能実習制度を利用した」「実習内容は単純労働で、技術を身につけられる仕事ではなかった」などと話したという。
6人を雇っていた和食店の男性オーナーは取材に、「ものすごく良い人材だった」と振り返る。ミャンマーで料理人をしていたり、身内が飲食店を営んでいたり。「はじめから包丁が使える子ばかり。日本人の若い子を雇うより、よっぽど良いくらいだった」仕事の覚えも早く、日本人スタッフが敬遠するような忙しい時間帯でも率先して入った。和食店の時給は1千~1200円ほどで、6人は「忙しくて大変だけど、社長はちゃんとお金を払ってくれる」と口をそろえたという。紛争が続くミャンマー北部地域出身で、「命が危ないから帰りたくない。平和な日本で働きたい」と、片言の日本語で話す人もいた。オーナーの男性は「雇う際に在留カードは必ず確認していたが、就労できないタイプがあることは事件まで知らなかった」と話す。 現在、外食産業で技能実習制度はない。ただ、国会で審議されている出入国管理法改正案が成立すれば、外国人は新在留資格「特定技能」を使って外食産業で働けるようになる見通しだ。同じ職場ならば、転職もできる。男性は「外食業でも、経営者が責任をもって自社で雇う外国人のピザを申請できるようになって欲しい」と話す。
 失踪し就労 逮捕者相次ぐ 地方の実習先から失踪して東京都内の資格外の仕事に就いたとして、元技能実習性が警視庁に逮捕される事件は相次いでいる。捜査関係者は「実習先より賃金の良い仕事を求めて上京する。ミャンマー人の間では『5年間で500万円』というのが一つの目標になっているらしい」と話す。元実習生らはSNSや口コミなど同郷のつながりを頼りに集まるため、一つの事件が次につながるケースが多い。6月には、都内でホテル清掃や焼き肉店などで働いたとして、ミャンマー人6人が逮捕され、10月には同じホテルで働いていた別のミャンマー人ら3人も逮捕された。このうちの1人が、和食店などで働いていた9人のうちの1人の同居人だった。法務省によると、今年1~6月に失踪した実習生は4279人を突破した。年間で7089人と、過去最多だった昨年を上回るペースで失踪が起きている。(荒ちひろ、稲垣千駿)

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