12月14日 大変革迫られた中小企業

朝日新聞2018年12月9日4面:脱「専業」「系列」経営難乗り越えて 存続できるかどうかー。2008年9月のリーマン・ショックは、多くの中小企業を経営難に追い込んだ。会社や社員を守るためにもがき、事業モデルを変えた中小もあった。荒波を乗り越えたいま、新たな課題が忍び寄っている。
「受注半減」新たな分野に その紙には半年先の春、受注がいまの「5割減」になると記されていた。2008年11月、大阪府東大阪市で部品加工を手がける「中農製作所」。当時社長だった中農康久会長(71)は、取引先の自動車部品メーカーから届いた発注計画に背筋が凍った。日を追うごとに仕事が減っていく。「このままいけば、会社がつぶれてしまう」35人ほどの社員には週5日の出勤を3日にし、給与も4割カットした。役員報酬も大幅に減らした。設備投資のあtめに金融機関から借りていた約8千万円は、当面の運転資金に回した。だが実際、受注は想定以上に減り、赤字に陥った。
会社のある東大阪は、中小企業が集まる全国有数の地域だ。同業者の前を通ると、シャッターが閉まったまま。隣やそのまた先でも、似た光景を目にした。「休業なのか、廃業なのか・・」。自社の行く末を思うと気が重くなり、睡眠2~3時間の日が続いた。「自動車だけの取引にあぐらをかいとった。経営にノーをつきつけられた」。車産業を下支えする一員として、舞角注文をこなすだけでよかったが、リーマン・ショックで一変した。中農会長は、売上高の約85%を車部品が占めた状態を見直すことを決断。技術を頼りに、半導体機器や油圧機器に必要な部品加工にも乗り出した。人や資金が少ない中小にとって畑違いの分野はリスクだが、「背に腹はかえられなかった」。あれから10年。ベトナムに工場を新設し、半導体向けの生産を強化した。「脱・専業」で売上高はリーマン前を上回り、車以外の分野が全体の7割以上を稼ぎ出す。「ようやくスタート地点。今後5年で売上高を2倍にしたい」。会社はすでに次の目標を見つめる。経験生かし飛躍 日本経済は、90年代のバブル崩壊で「天国から地獄」を経験。弱った経営体力を少しずつ取り戻してきた。そんな不況の記憶が遠ざかりつつあるなか、リーマン危機に見舞われた。兵庫県尼崎市の「ヤマシタワークス」は車部品の加工メーカーだったが、リーマン後、製薬向けの事業に本格参入した。増設するほどフル操業だった工場が2割まで落ち込んだ。製薬会社に飛び込み、錠剤をつくる器具に出会う。ヤマシタはこれを他社の半分となる1ヵ月弱で仕上げた。納期の厳しい車分野での経験を生かし、製薬大手から次々に仕事が舞い込んだ。山下健治社長(61)は「危機のおかげで新分野に挑戦でき、会社を大きくできた」 大手が海外移管 大手電機メーカーとの取引に支えられた中小も多いが、大手は00年ごろから本格的に生産を海外へ移した。リーマン後は円高が進み、移転に拍車をかけた。大阪府守口市の「三郷金属工業」は、パナソニックの系列として小型電池の溶接を請け負ってきた。だが10年ごろ、同社担当者から「海外移管が進みます。準備を進めてください」と、自前で取引先を確保するように告げられた。パナソニック一筋で約30年。三郷金属の児島貴仁社長(43)は「『社依存』は技術が蓄積でき、取引も安定する。いま振り返ると、楽だった」。大企業のもとでずっと安泰だと思っていたが、「脱・系列」を迫られた。今は車やエアコン向けの仕事に加え、化粧品の箱詰めも担う。「会社を守るためには仕事を開拓し、何でもやらないといけない。そんな時代になったんです」
倒産防止の政策 今も賛否 政府は中小の倒産を防ぐために、手厚い政策をとった。その一つが、09年に施行した中小や住宅ローン利用者の借金の返済猶予を促す「中小企業金融円滑化法」だ。中小からの求めがあれば、貸し付け条件の変更に応じるよう金融機関に求めた。13年までの間、約30万~40万社が貸し付け条件の変更などをしたとされ、全国の中小の約1割にあたる。「運転資金としてお金を借りるのは初めての経験。『禁断の実』に手をつける気持ちやった」。工作機械や航空機部品をつくる「大阪工作所」(東大阪市)の高田克己会長(74)は振り返る。1億5千万円の機械を購入できるほど業績は安定していたが、リーマン後は赤字続きで、金融機関から約1億円を借り入れた。「国に助けてもらえなければ、消えていたかもしれない」。新入社員の採用を再開するなど、経営は軌道にのりつつある。08~09年に1万5千件を超えた倒産件数は、17年には8400件まで減った。円滑化法の効果があったとされる一方で、政府が技術力もない中小を延命させたという「ゾンビ企業」批判もつきまとった。関西の中小企業団体幹部は「企業数が温存され、業界によっては消耗戦が続く。力のある企業の競争力を奪っており、ゾンビ企業が残った弊害だ」と指摘する。
後継者難で廃業増加 人材確保さらに深刻 リーマンから10年、大企業は好業績に沸き、中小の景況感も上向く。09年に過去最低の0.47倍だった有効求人倍率は、17年には1.50倍と44年ぶりの高水準を記録した。人材獲得競争が、新たに中小の存続を脅かしている。「人を採れないで、仕事を受けられない。会社を大きくできるチャンスなのに・・」。設備補修業を営む近藤溶工(大阪市生野区)の近藤靖人社長(46)は悔しがる。4人だけの家族経営。ハローワークに求人を出しても数年前の半分以下の応募で、雇っても長続きしないという。東京商工リサーチによると、今年1~10月の「人手不足」関連倒産は324件で、前年同期から2割増えた。統計を取り始めた13年以降、同じ期として過去最多となった。後継者問題も深刻だ。経営者が60歳以上で後継者が決まっていない中小は127万社にのぼり、日本企業の3分の1を占めている。資金繰りの悪化による「倒産件数」は減っているが、経営者の高齢化などで自主的な廃業は増えている。
このため6月には、若手後継ぎが家業を引き継ぎ、新規事業などをめざす「ベンチャー型事業継承」の全国組織ができた。代表理事の山野千枝氏(49)は「後継ぎの内向き奈イメージを変えて、将来の廃業を減らしたい」。大手自動車部品メーカーの一部でも、取引先の後継者育成を支援する動きも出始めた。立命館大学経営学部の田中幹大教授(42)は「国の中小対策は後継者対策が後手に回っていた。リーマン・ショックは一時的な需要減だったが、いま起きていることは構造的な問題。日本企業の競争力をじわじわと奪う新たな危機にうながる」と警鐘を鳴らす。(神山純一)

 

朝日新聞ASAの伸光堂西部販売 森林文化協会

ご予約・お問い合わせはお気軽に

Tel0120-740-276

〒352-0011 埼玉県新座市野火止8-14-29

ページトップへ戻る