10月8日 ふるさと納税を問う

朝日新聞2018年10月3日15面:末安伸之さん 佐賀県みやき町長 1956年生まれ。社会福祉法人の常務理事を経て、旧佐賀県中原町長を3期務めた後、2005年から現職。特産品ないと厳しさ増す
2005年に3町が合併して誕生したみやき町は、人口約2万5千人、税収約27億円の町です。昨年度は、税収の3倍の72億円の寄付をふるさと納税で頂きました。08年5月にふるさと納税制度が始まると、すぐに寄付の受け皿となる基金を創設し、7月には受け入れを始めました。しかし、寄付額は年間100万~200万円という状態がすっと続いてきました。そんな中、13年に県内のある自治体が急に、寄付額を大きく伸ばしました。調べてみると、民間が運営するふるさと納税サイトに登録していたことがわかりました。早速、あるサイトに登録したところ、15年度の寄付額は約9億7千万円に跳ね上がり、16年度にサイト数を増やすと、約14億8千万円に増えました。
周辺自治体もサイトを使うようになるにつれ、返礼品競争が始まりました。当時、みやき町は寄付額に対する返礼品の金額の割合(返礼率)を3割程度に抑えていたましたが、周辺自治体が次々と高額の返礼品を贈る中、対応策として、返礼率を約4割に上げざるを得ませんでした。今回のふるさと納税をめぐる混乱の原因の一つに、当時の野田聖子総務相の発言があると思います。総務省は昨春、返礼率を3割以下とし、家電などの豪華な返礼品を認めないとする通知を出しました。しかし野田氏は昨年9月の新聞インタビューで、家電や商品券など換金性の高い返礼品についても「地方の首長の良識ある判断が第一義。いたずらに止めることがあってはならない」と述べました。
この発言をきっかけに自治体から自粛ムードが消え、再び、貴金属や商品券といった返礼品を贈る自治体が出てきました。特産品の少ないみやき町も「家電を返礼品に加えてほしい」という町内の電器屋からの要望に応え、ロボット掃除機やipadなどの家電を返礼日に加えました。今回の総務省の方針を受け、家電などの返礼品をやめ、返礼率も今年度中に30%に下げます。寄付額が減ることが予想されますが、小中学校の給食補助などは、基金を取り崩しながらできる限り続けたいと考えています。
返礼品を地場産品に限定すれば、特産品のない自治体の財政状況はますます厳しくなり、特産品がある豊かな自治体はますます豊かになります。ふるさと納税が、自治体の財政状況の格差を拡大させることになるのです。ほとんど地場産品がない自治体を見捨てていいのでしょうか。総務省の現況調査は、正直者が損をする時事申告ベースです。「返礼率3割以下」「地場産品に限定」というルールや、調査のあり方も含め、都市部や地方の自治体の代表者が加わり、制度設計を議論し直すべきではないでしょうか。(聞き手・山口栄二)


田中良さん 東京都杉並区長 1960年生まれ。杉並区で生まれ育つ。テレビ局勤務、同区議、東京都議を経て、2010年から現職。返礼品依存 真の活性化か 杉並区は昨年度、ふるさと納税により住民税が13億9千万円流出しました。今年度は18億7千万円にのぼる見通しで、この5年で47倍に増えました。一方、寄付として流入するのは約5千万円です。23区では地方交付税による補填もありません。学校の体育館へのエアコン設置や介護施設の増床など、やりたいことは山ほどあります。予算の関係で取捨選択せざるを得ない中で、10億円以上の減収はとても痛い。そもそも住民税は、「どんな行政サービスを求めるのか」という住民合意を実現するため、住民が所得に応じて負担する「全員参加の会費」みたいなものです。それを返礼品目当てで外の自治体へ振り替えることを認める仕組みは、税の趣旨を遺脱しています。
ふるさと納税は「税」と銘打っていますが、実際は寄付行為です。寄付とは本来、見返りを求めず「有効に活用してほしい」という思いを託すもの。それなのに受け取る側が「3割は返すから寄付してね」なんてありでしょうか。だから杉並区は返礼品競争には参入しません。頂いた寄付を被災地へ音楽を届ける日本フィルの応援などに活用していますが、お礼は出しません。この制度で返礼品を認めているのは、障害者の就労支援につながる品物だけです。この制度をきっかけに、地方の自治体が地場産品を発信しようと工夫し、PRが進んだことは良かったと思います。ただ軌道に乗った後はいつまでも「官製通販」に頼るのでなく、民間市場に委ねるべきです。このままでは、寄付金を多く集める自治体ほど「返礼品経済」への依存度が高まります。これが真の地方活性化と言えるでしょうか。東京への一極集中化が進み、地方が疲弊している現状の打破には、都市部の自治体も取り組むべきです。地方が立ち行かなくなれば東京にもはね返り、日本全体が沈滞するからです。
こうした問題意識から、就任以来、地方の交流自治体と連携して、小中学校の移動教室、他自治体での特別養護老人ホームの整備などの事業を増やしてきました。地方の経済活性化につながり、区民にもメリットのある事業です。制度の改革案として提案したいのは、こうした都市と地方との交流・共働事業にかかる経費を住民税の流出分から控除し、都市の財政へ戻すことです。こうしたインセンティブがあれば、都市の自治体は自らの問題として地方活性化へ主体的に取り組むようになるのではないでしょうか。ふるさと納税で、自分を育ててくれた故郷を活性化したいー。旗振り役の菅義偉官房長官の思いは、分かる気がします。でもそれが返礼品競争になっているのは、ご本人も本意ではないと思います。(聞き手・藤田さつき)


森信茂樹さん 東京財団政策研究所研究主幹 1950年生まれ。中央大学特任教授(租税法)。元財務省財務総合研究所所長。著書に「消費税、常識のウソ」など。 制度の根本 見直しが必要 盛り上がった地方振興に冷水を浴びせるようなので、返礼品について目くじらを立てる気はありません。香典も半返しと言いますから、半分がいいのか3分の1がいいかというのは別にして、寄付してもらったら特産品で返すというのはいいと思うんですよ。
問題は、ふるさと納税は「寄付文化」を醸成する税制として始まったはずなのに、寄付になっていない点です。一般的な寄付税制では、10万円寄付したら半分の4万9千円が税額控除で戻ります。残りの半分5万1千円は身銭ということです。しかしふるさと納税では2千円を引いた残り全額が戻り、返礼品がもらえます。身銭をほとんど切らないで、寄付ではなく金持ちのカタログギフトのようになってしまっています。ふるさと納税もほかの寄付税制と同じ仕組みにすべきです。そもそもふるさと納税の導入には「地方間の税収格差」を是正する意図がありました。個人住民税の住民1人当たりの税収額は東京都と沖縄県で2.6倍の格差があります。地方法人二税(法人住民税と法人事業税)の差はさらに大きく、東京都と奈良県では6.1倍の格差です。
ふるさと納税は返礼品やネット掲載などの経費がかかるため、実際に行政が使える額は額面より少なくなります。是正効果がないとはいえませんが、総務省は検証結果を明らかにしていません。格差がほとんど是正されていないのからでしょう。実は税収が豊からと言えない北海道の帯広市や室蘭市なども、ふるさと納税による「流入」より。住民税の減収の「流出」の方が大きくなっています。また、ほとんど知られていませんが、国は赤字分の75%を地方交付税で穴埋めし、自治体から文句が出ないようにしています。
結局、高所得者においしいこの制度を支えているのは、国と、交付税が交付されないため穴埋め措置が適用されない東京23区や川崎市などの自治体です。国や23区などは、子育て関連など本来できたなずの事業に、税金が使えなくなっているということです。税収格差を是正するには、集めた税収の再分配しか手がありません。しかし現行の地方交付税では中央集権を強めてしまいます。私は、最も格差が大きい地方法人税を地方の共通財源にして、客観的指標で各自治体に割り振る制度にすべきだと思います。企業の本店が集中する東京都が反対するので簡単ではありませんが、大きな絵を描いて着実に進めるべきです。小手先のふるさと納税ではだめです。ふるさと納税は、制度の根本を見直すべきです。菅官房長官の肝いりなので、霞が関でもみんな「おかしい」と思いながら口にしません。それもおかしいですが。(聞き手・大牟田透)

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