10月30日 池上彰の新聞ななめ読み

朝日新聞2017年10月27日15面:選挙結果をコラムで書く 心に入る文章作りの矜持 衆議院総選挙の結果が新聞紙面にあふれているとき、コラムで何を取り上げるか。担当者の腕の見せどころです。読み比べをしてみましょう。まずは朝日新聞10月24日付朝刊の「天声人語」です。 <織豊時代の越中(富山県)に佐々成正という武将がいた。筋金入りの秀吉嫌い。何かと遠江(静岡県)を訪ねて家康と談判し、決起を説こうと思い立つ。だが秀吉の領地を通れば討たれるのは必至。立山連峰から信州へ抜ける雪山越えを選んだ>
はてさて、選挙結果とどういう関係があるのか、と読者は思うでしょう。これが筆者の狙いです。読者に「おや」と思わせ、実は・・と論旨を展開させる。新聞のコラムのひとつの定番です。さらに読み進むと、佐々成政が雪山の峠を越えたことを「さらさら越え」というのだそうです。ここまでくれば、わかりますね。希望の党の小池百合子代表が民進党の立候補予定者全員を受け入れるつもりは「さらさらない」と発言したことを論じようとしていることが、ここで種明かしされます。
一方、読売新聞の同日付の「編集手帳」も同じ手法です。<江戸時代の長州藩は<へそくり>を貯めていた。18世紀半ば、7代藩主・毛利重就(しげたか)は通常の藩財政とは別に、撫育方(ぶいくかた)と呼ぶ基金を設けた。塩田の開発や港の建設などで得た収入をコツコツと蓄えた。藩は窮乏していたが、流用は許さない。幕府に冷遇された外様大名として、戦乱などの非常時に蓄えるためだった> こちらも歴のエピソードから始まっていますが、読者はすぐに「ははあ、政府の財政の話だな」と気づくでしょう。長州藩が積み立てた資金は、やがて倒幕の費用に向けられたというわけです。
読者に「おや」と思わせる筆致は朝日と同じですが、早々と言いたいことがわかってしまいます。「編集手帳」の筆者は、先日まで竹内政明さんでした。その文章は、私に言わせば「読売新聞1面を下から読ませる」というほどの名物でした。その竹内さんは体調を崩し、一線から引退したそうです。残念でたまりません。
竹内さんの後継者は、さぞかしプレッシャーを感じていることでしょう。同情を禁じ得ませんが、「もし竹内さんだったら・・」と思ってしまうことが度々あります。ここは竹内さんとは全く違った手法で読者を楽しませる文章を開拓してほしいと要望しておきましょう。
実は竹内さんの文章法には、ある特徴がありました。新聞コラムには、狭いスペースに文章を詰め込むため、「ここで段落が変わる」を示す記号が入っています。天声人語は▼、編集手帳は◇です。竹内さんの文章は、コラム内の◇が、すべて横一線に並んでいました。これが竹内さんの文章への矜恃というか、悪戯心だったのです。
この心意気を継承しているのが毎日新聞の「余禄」です。こちらの記号は▲です。違うテーマを扱っているのに、▲マークは、連日のように横一線に並んでいます。これがいかに大変なことか、文章を書く立場になればわかります。同日付の余禄も、歴史のエピソードを扱っています。<江戸の人の習いごと熱は生半可でなく、珍妙な師匠もたくさんいたそうな。なかには「秀句指南」とういものもあった。俳句や川柳を教えるのではない。「秀句」とシャレ、はっきり言ってダジャレのことだ> 実際の文章では、ここで▲のマークが入ります。この出だしだと、やはり読者に「何の話だろう」と思わせますね。こちらも希望の党の小池百代表のことでした。
江戸の珍妙な師匠の話は落語にもなり、噺の中に「けんか指南」も出てくる。けんか上手といえば東京都知事・・という話の流れです。最終的には<「排除します」の”拙句”で勝負運はすぐに去った。結果は、左右のけんか相手の勝利であった> というわけです。どうも話しの展開が回りくどいですね。美学を守りながら、読者の心に入る文章づくりは難しいのです。
◇東京本社発行の最終版を基にしています。

 

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