10月30日 オトナになった女子たちへ 益田ミリ

朝日新聞2017年10月27日35面:今もバーにドキドキ ちょっと行きますか。おっ、行きますか。 会食のあと、バーに寄ろうということになる。 バー。とくにオトナになっているのに、まだ足を踏み入れてはならなぬ場所のように気がしてならない。とはいえ、近寄らないわけではなく、機会があれば踏み入れるわけだが、バーは、行く前の、やや張り切った雰囲気がよいのだった。
「ここです」言われてビルの前で立ち止まる。「ほっ、ここですか」エレベーターに乗り込む。初めての店だからよく分からないと言うが、ある程度の下調べは済んでいるのであろう。でも、ドキドキする気持ちは共有できる。「エレベーターを降りて、こりゃ違うな、と思ったらやめましょう」と言われ、そうですね、と答えておけばよいものを、「いきなり店内、という場合もありますよ、フッフッ」脅かすわたしである。
エレベーターのドアが開いた。バーの扉は別にあった。「入りますか」。「入りましょう」。カウンターには女性のバーデンダー。いらっしゃませの声がステキだった。低い声の女性に憧れる。特に、少しかすれたような。自分がそんな声だったなら、もっと落ち着いた人になれたものではないか、とも思う。私は声が高く、早口なので、どうも「あたふた」して見えるらしい。そして、実際、あたふたしている。会話中、シーンとなったときには、なぜか、先に話し始めなければ、という使命感が湧き、どうでもいいような話題を振ってさらに場が静まるという・・・。
カウンターには男性の先客がひとりいた。飲み始めると、ちらほらお客がきて、気づけば満席に。自分と同じく、みんな、「今、バーに来ている!」という、ちょっぴり得意げな顔に見えた。思春期の頃を思い出していた。初めてマニキュアを塗って出かけた日のこととか。バイト代で、黒いタートルセーターを買った日のこととか。季節のカクテル(巨峰)と一緒に、甘酸っぱい過去も味わったのだった。(イラストレーター)

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