10月29日 ザ・コラム 山脇岳志(編集員)

朝日新聞2017年10月26日14面:データ軽視の日本 世界と比較わかる「健康」 米国から日本に帰任して3ヵ月あまりになる。4年の米国暮らしで、7キロも増えた体重を何とか減らしたい。そこで朝と夜に体重計に乗り、記録をつけている。食べ過ぎを防ぐ効果がある、はずである。かつて同じ方法でダイエットに成功したことがる。だが今回は、なかなかうまくいかなかった。理由はわかっている。食べ過ぎた晩には、体重計に乗らず、「記録なし」にしてしまうためである。
いいかげんな体重計でもあった。続けて2度乗ると、500グラムも差が出ることがある。迷いなく軽い方を記録してしまう。見たくないデータから目を背ける。政治家が真実と関係なく都合のよいことを話す「ポスト・トゥルース(真実後)時代」ではあるが、これではトランプ大統領についてあれこれ言う資格もない。
そんなとき、京都大学名誉教授の村松岐夫さんに久しぶりに会った。日本政治学会理事長を務めたこともあり、政治と官僚の関係の研究などで知られている。
77歳の村松さんは、危機感にあふれていた。「日本はデータを軽視しずぎる。データは研究に不可欠なのだが、保存や管理がおろそかだし、海外への提供も極めて限られる。日本の『品格』にかかわる」
村松さんら、社会科学や人文学の分野で活躍する学者たちが、日本学術振興会で「大同団結」し、きちんとした「データインフラストラクチャー」を作ろうと政府に働きかけていると知った。国税調査や家計調査といった政府統計は、研究に欠かせない。だが、分類方法が変わったり、市町村が合併したりで、過去の調査との比較がしにくい統計も多いという。また、基礎データが公開されていないために、海外の研究者がきちんと研究に使えないケースも多い。
たとえば、貧困や所得格差の代表的な国際比較調査のための基礎データは、慶応大学の樋口美雄教授のグループが集めている。樋口さんらは、この調査結果を国際機関などに提供し、海外の研究者も分析できるようにしている。また、世界各国の価値観について調べる「世界価値観調査」は、同志社大学の池田謙一教授のグループが担っている。
調査からみえる各国の姿は、興味深い。たとえば、「もし戦争になった場合、進んで自国のために戦いますか」という質問に対し、日本で「戦う」と答えた人は15%。約60カ国の調査の中で最も低い数字だった。最も高かったのはカタールで98%。中国は74%、米国は58%だった。
日本の数字を低すぎるとみるのか、肯定的にみるのかは、立場によって異なるだろう。ただ少なくとも、世界のデータの中に日本もなければ、分析できない。
こうした主要な調査は、海外では政府や準政府機関が行ったり、大学に安定的な資金が渡ったりしているケースが多い。日本政府も、各種の統計データを国の政策に生かすための推進委員会を作ったが、データ集めで研究者の個人的な努力や熱意に頼っているケースがままある。調査を英語で発信する取り組みも遅れている。大阪商業大学学長の谷岡一郎さんは「日本の社会科学は、海外のデータを借りて成り立つフリーライダー(ただ乗り)だ」と手厳しい。大阪商業大のJGSS(日本版総合的社会調査)は、日本人の日常行動を継続的に調査し、海外の研究者もよく利用する数少ないデータベースである。中心的な学者が引退したら、こうした調査も継続できなくなるかもしれない。
さて、データを重視する学者に取材しているうちに、体重データにすら目を背ける自分に、目を背けられなくなった。おまけに「人間ドッグ」を受診したら、尿酸、中性脂肪、血糖値などが正常値を外れている現実を突きつけられた。体重計を買い替えた。食べ過ぎた日もいやいやながら体重計に乗り、毎日記録した。すると、徐々に体重が減り始めた。
日本を「人間ドッグ」に入れ、世界と比べる。そのために、さまざま角度のデータを継続的に集め、保管し、使いやすくするための仕組みをつくる。日本の健康を保つために、大事なことだと思う。

朝日新聞ASAの伸光堂西部販売 森林文化協会

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