10月26日 波聞風問 編集委員 多賀谷克彦

朝日新聞2017年10月24日7面:続く企業不正「これぐらいなら」させぬには 不正の裾野はどこまで広がり、いつまで時をさかのぼるのは。神戸製鋼所が明らかにした不正である。データの書き換えなどの不正の舞台は国内外に及び、関わった管理職は数十人に上るという。10年以上前からの不正もあり、組織ぐるみの疑いが強い。不正の全体像、原因の究明はこれからだ。企業不祥事が起きると、経営陣が何らかの責任を取り、再発防止策がつくられる。でも、神鋼は199年以降、不祥事を繰り返していた。最近では、東芝や日産自動車の例もある。
どこも法令順守、企業統治の重要性は分かっているはずだし、態勢も整えてきた。それでも不正が絶えない。組織の問題点を明らかにすることは当然だが、関わった個人の心理も分析する必要はないか。それには、今年のノーベル経済学賞に選ばれたリチャード・セイラー米シカゴ大教授らが研究する行動経済学が有効だ。伝統的な経済学では倫理が重視されるれが、行動経済学では人の経済活動での感情や心理が分析の対象となる。心理を分析するデータを集めるための実験も欠かせない。
今回は「The(honet)truth about dishonesty」(邦題「ずる」)を書いたダン・アリエリー米デューク大教授の考えを参考にしたい。「ずる」は「ずる賢い」のずるである。教授は不正を促す八つの要因を示す。まず「自ら不正をしても利益を得るのは他人」という要因だ。神鋼の不正でも、関わっても直接は自分の利益にはならず、得したのは会社だった。だから不正に関わっても自らに言い訳ができた。
また「他人の不正を目撃する」というのも、複数の部署、管理職が関わっていたという神鋼に当てはまる。「上司や同僚もやってた」という思いは道徳心の垣根を下げる。教授は「人は不正に感染しやすい」とも説く。次の「消耗」は疲れがたまると道徳心が損なわれ、不正に手を染めやすくなるという分析だ。神鋼幹部の会見では「納期を守り、生産目標を達成するプレッシャーがあった」という説明があった。
では、どんな対策が有効なのだろうか。この分野を研究する大竹文雄・大阪大教授「厳罰も需要だが、道徳心を呼び起こす工夫、環境も必要だ。米国の実験ではモーゼの十戒を思いださせ、不正が減ることが立証されている。仕事前の朝礼もそういう視点で活用してはどうか」という。
次のような実験もあるという。英国の大学でコーヒー代金を入れる箱の前に目の写真を貼ると、花の写真を貼っておいたときより、回収漏れが減ったという。見られているという環境づくりだ。ちょっとした誘惑が不正への抵抗を鈍くさせる。人間の弱さだ。本人は「これぐらいなら」という思いだったとしても、その小さな弱さの積み重ねが、大きな会社を危うくしている。

朝日新聞ASAの伸光堂西部販売 森林文化協会

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