10月23日 温故知新 樋口陽一

朝日新聞2017年10月21日Be9面:『総選挙読本』と『人民読本』 貴族院議員も務めた数学者、藤沢利喜太郎(1861~1933)に、『総選挙読本ー普通選挙の第一回』(岩波書店1928年刊)という著書があります。統計の知見を生かし、社会的、経済的なことがらの理解に貢献しようとものされた仕事のひとつです。
大正デモクラシーと憲政擁護運動の成果として一人一票(男性だけ)を保障した普通選挙法が成立して3年あと、その第一回の適用が1928年2月の総選挙でした。官憲による選挙千渉という公然の事実があった当時であり、著書は官庁統計にそのまま頼ることをせず、選挙後約50日間にわたる「惨憺たる苦心の結晶」として基本資料を整えた上で(「端し書き」)、政治社会学的な分析に立ち入ってゆきます。
棄権率が「一割九分七厘」に過ぎない「好成績」の裏には「百鬼夜行」の買収行為があった。前議員の再選出率がそれまで三~四割だったから今回の五割三分は「豊富なる軍資金といふ浮雲によって覆はれた変則的のもの」だった。-これらの点はいまどうしでしょうか。政党は「離合集散の恒ならず」「中ぶら議員」「脱離党に悩まされた民政党の一部」といった指摘は、いっときの五十五年体制を例外として戦前戦後を通して当てはまるでしょう。
「二大政党」を「妖夢」とするリアリズムの一方で、「大衆は巨像の如く歩む」という地についた希望も誌されています。90年前の本から読み取るべきことは少なくありません。
もう一時代さかのぼると明治期(1901年)と大正期(1913年)にそれぞれ出版された『人民読本』があります。著者は新聞記者から衆議院議員五期を経て貴族院議員にもなった竹越与三郎(1865~1950)で、明治版には西園寺公望侯爵(当時)が題辞を寄せています。
本は「立憲政治」の将来の担い手に向けて「少年よ少女よ」と呼びかける形で書かれています。「少年少女よ 御身等は愛国心の意義を解したるか。」「何事にても我国民の為したることは是なりとする」は「真正の愛国心にあらずして、虚偽の愛国心」(明治版)。「肝雄また之に乗じて、その私を済さんとするものあるは、最も恐るべきことなり」(大正版)。「少年少女」ならぬ今の「おとな(18歳以上)」こそ心したいことです。(憲法学者)

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