10月22日 年金 生活の支えに不十分

朝日新聞2017年10月19日7面:現役世代は制度に懐疑的 「宝くじみたいなものだね。当たればだいぶゆとりができるんだけど」テレビや洗濯機のない東京都国立市の木造アパートにお一室。無職の小板橋義男さん(79)は公営住宅の落選はがきの束に目をやった。収入が低い高齢者向けに定期的に募集があり、6年前から申し込んでいる。入れれば家賃が2万円ほど浮くが、今月初め、38回目の落選通知が届いた。
月13万円ほどの年金が生活の頼りだ。3万5千円の家賃や食費、光熱費などにほぼ消える。退職時に約150万円あった貯金は生活費を埋めるために取り崩し、もうない。火葬費用の負担がなくなると知り、献体の登録もした。高卒で入った工事会社は30代で倒産した。起業したが商工ローンの返済に追われ、「迷惑をかけられない」と妻子と別れて独り身に。その後は、清掃の仕事などで生活をつないだ。
55歳の時点で年金の保険料を納めた期間は12年ほど。25年の受給資格要件(現在は10年)に遠く届かないと知り、不安になって厚生年金加入のタクシー会社に入った。配車室での勤務を72歳まで続け、68歳から年金を受け取れるようになったが、厚生年金の平均受給額(15年度)の約14万8千円を下回る。
昨年12月、年金受給額の抑制策を強化する年金制度改革法が成立した。「増やせとは言えない。でも、これ以上切り詰めた生活は、人間的だと言えるのか」
現役世代も不安を抱える。国民年金に加入義務がある都内の女性(23)は、20歳からほとんど保険料を払っていない。専門学校卒業後、19歳で大手居酒屋チェーンを経営する会社に正社員として入ったが、勤務がきつくて退職。その後、スーパーなどでアルバイトとして働いていた。収入は月20万円前後。家賃、住民税、専門学校の授業料に充てたローンなどを支払うと、現在は月1万6490円の保険料を支払う余裕はなかった。「自分の生活を圧迫してまで高齢者のために保険料を払う意味があるのか」。年金制度が持続して将来自分が受け取れるか懐疑的でもある。「年を取る前に、さっさと死んでしまいたい」との思いすらよぎる。
実質的に目減りへ 今の年金制度は、現役世代が負担する保険料などで高齢者の年金を賄う「仕送り方式」だ。少子高齢化が進む中で制度を維持するため、年金額の伸びを物価や賃金より抑える「マクロ経済スライド」と呼ばれる仕組みがあり、年金は今後、実質的に目減りしていく。
現役世代の平均的な収入に対する年金額の割合は14年度で62.7%。徐々に下がっていき、14年の厚生労働省の試算では、経済が順調な場合でも43年度以降は50.6%一定になる。デフレ下では発動されないルールで、これまでほとんど機能してこなかったが、年金制度改革法で抑制しやすくなり、低年金の人への目配りの重要度が増している。
特に国民年金の受給額は満額でも月6万5千円ほど。自営業者らを念頭に制度設計されたが、今や働き手の4割を占める非正規労働者の多くも対象となる。政府はこれまで、厚生年金の対象者拡大などの対策を進めてきた。一方で今年から、自分で掛け金を出して運用し、公的年金に上乗せして受け取る「個人型確定拠出年金」に原則みんな入れるよう制度を改正。「自助努力」も促す。
中央大学の宮本太郎教授は「年金の給付水準を維持するのは難しくなっているが、余裕がある高齢者のい負担を求めるなど同世代内の再分配機能を高める工夫が必要だ。同時に医療や介護の負担軽減、住まいへの支援、高齢でも無理せず働ける環境の整備といった年金が少なくても暮らしていける仕組みづくりが急務となっている」と指摘する。(佐藤啓介、高橋健次郎)

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