10月13日 人生の贈りもの 浅田次郎【15】

朝日新聞2017年10月6日31面:過去の自分に敬意払い続ける 代表作はいつ出るか分からないからね。もう出ちゃってるかもしれない。最初からずっと読んでくださっている読者は稀だと思う。途中から入る読者は刊行順や何歳の時の作品かは分からないでしょう。これはものを作る人間の宿命。ミケランジョロは20代の時に、バチカンの「ピエタ」像を彫って、あれが越えられないわけ。だからその後のピエタ3体が未完成になる。わざと未完成にしたという説もあるけれど、違うと思うよ。超えようとしたんだよ、20代の自分を80歳になっても。それは過酷なものですよ。
でもその過酷な人生そのものが、後世の制作者から見ると「ピエタ」そのものより傑作なんだ。だから未完成の3体とも見ました。芸術家の魂に、心を打たれました。そう考えると、自分も恐怖感がね。今でも「『鉄道員』を書いた浅田さん」って言われると、もうやめてよって。そりょミケランジョロだって言われたはずだよ。バチカンのピエタを彫ったミケランジョロさんですねって。
だから自分の小説はずっと読み続けています。ミケランジョロよりつらいところで、彼はバチカンに行って見てくればいいんだよ。それで「よし」とかいってまたやる気になるけど、自分は読み返さなきゃならないから、全部。ともかく今入ってきた読者でも、どれを読まれてもいいようにってことを考えています。決してナルシストではないよ。恐怖感からです。
≪自分の小説を読んで、不足を感じても直さない≫ どんなに後悔しても直さない。過去の自分に対する敬意を持たないと駄目。今の自分は、未来の自分に恥じない小説を書く。20年後の自分がこの小説を読んでも、感動してくれるような小説をいま書く。同時に、過去の自分に敬意を払い続けるというのが、読み返す時の姿勢です。昨日も『プリズンホテル』の一節を読んだけど、書けねえな、こんなギャグ。(聞き手 高津祐典=おわり)

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