10月12日「透析しない」という選択

朝日新聞2017年10月4日27面:腎臓の機能が低下し、人工透析を受ける人たちの高齢化が進んでいる。続けてきた透析をやめる例も増え、あえて始めないケースも出てきた。透析に伴う耐えがたいつらさも背景にあるようだ。納得のいく選択のため、心身のケアを可能な限り受けることが大切だ。
強い痛みを伴い中止 透析を受ける患者は、日本透析医学会によると約32万5千人(2015年末時点)。ほとんどは血液を体外できれいにして戻す血液透析だ。65歳以上が過半数を占め、増え続けている。高齢の透析患者の特徴は、腎臓以外にも病気を抱えている場合が多いことだ。
透析が必要になる最大の要因は糖尿病。全身の血管が傷害を受けやすく、脳卒中や心筋梗塞のリスクが高くなる。長年の高血圧などが招く心不全は、透析患者の最大の死亡原因でもある。うつや認知症を伴う人も多い。透析をやめる例も増えている。長崎市の男性は、糖尿病による腎不全で05年から8年間ほど透析を続けたが、血管や神経の障害で手足の先端が壊死し、激しい痛みに襲われた。痛みは透析を受けるときに一層強まり、鎮痛剤も効かなかった。13年秋には救命目的の手術をするのも難しいほど全身状態が悪化した。
「透析はやめて、自宅で最期を迎えたい」と男性は望んだ。通っていた長崎腎臓病院は緊急の倫理委員会を開き、透析の中止を承認。男性は痛みのケアを受けながら自宅で過ごし、最後の透析から7日後に亡くなった。59歳だった。昨年12月から今年1月にかけて、岡田一義・川島病院(徳島市)副院長が全国の主な施設にアンケートしたところ、解析対象の47%にあたる240施設が「血液透析の開始や継続を見合わせたことがある」と回答した。総数893件の9割が65歳い以上の患者。透析の継続を見合わせるケースが約6割を占めた。
学会は14年、見合わせに関する提言を発表。「透析を続けること自体が危険なほど患者の状態が悪い」「本人の意思がはっきりしている」といった場合に医療チームと十分に話し合い、見合わせる選択肢もあり得るとした。透析しないと、尿として出ていくはずの毒素がたまり不快感や呼吸困難を招く。「もうやめたい」と思うのは、透析をしないつらさよりも苦痛が大きいときだ。
長崎腎臓病院の船越哲理事長は、その一つに「透析困難症」をあげる。透析中に血圧が大きく下がり、気分悪化や失神、筋肉のけいれんなどが起きる。心機能の落ちた高齢者に多いという。病状が重くなったときに透析を続けるかどうか、比較的元気なうちに意思を記しておく「事前指示書」を患者に配る施設も増えている。14年前から取り組むJCHO(ジェイコー)千葉病院(千葉市)ではこれまでに約2800枚を配布し、希望に沿う形で家族と相談、11人が透析をやめて亡くなった。室谷典義医院長は「指示書の内容だけで中止はしない。あくまで家族と方針を決める際の参考に使う」と説明する。
娘の説得 拒んだ人も 血液透析は病院や診療所に週に3回通って腕などに太い針を刺し、1回あたり4時間以上、じっとしている必要がある。透析をしないと、いずれ死が避けれらない。施設でする血液透析のほかに、自宅でできる「腹膜透析」や「在宅透析」という方法もある。こうした説明を何度も受けたうえで、最初から透析を受けないと決める人もいる。自分の大事な時間を奪われたくない、ずっと家で過ごしたいなど理由はさまざまだ。福岡赤十字訪問看護ステーション(福岡市)の井手麻利子看護師は3年半ほど前、透析をやめる娘の説得を頑として拒み、自宅で療養した80代の女性をみとった。
岡山済生会総合病院(岡山市)は、腎臓病で近く透析が必要となりそうな患者向けの看護外来を設け、今後どんな治療を希望するか、看護師らと話し合ってもらっている。担当する透析看護認定看護師の大脇浩香さんは、透析しないことを選んだ人へのケアにも力を入れる。透析しないことでどんな症状が予想されるのかを事前に伝えるほか、痛みやむくみといった症状があれば医師に連絡して治療につなげる。患者が住む地域の在宅医や訪問看護師らと情報をやりとりすることもある。昨年度かかわった60人のうち、4人が透析しないことを選んだという。
心身の苦痛ケアする必要 透析を受ける患者は体の不調を抱えやすいだけでなく、透析で従来の生活を変えないといけなくなることなどについ悩み、落ち込みやすいといわれる。埼玉医科大かわごえクリニック(川越市)の堀川直史客員教授(精神科)は「『もう死んでもいいから透析をやめたい』という人の背景には、うつが控えていることがある」と指摘する。
そんな人には、体の症状を丁寧に診察し治療することが心のケアにもなるという。「こちらが気付けないことも多いので、心配事なども含めてつらいときは遠慮なく訴えてほしい」 欧米では最近、透析などに伴う患者の心身の苦痛を軽くし、生活の質や治療選択を支えようという「腎臓サポーティブケア」という取り組が進みつつある。がん患者らへの緩和ケアと同様だ。
透析医学会の提言は「透析を見合わせた患者に効果的な緩和ケアを提供する」と盛り込む。ただ、緩和ケアは診断直後からあらゆる段階で提供されるべきだとの考えが、今は主流になっている。(編集委員・田村建二)

朝日新聞ASAの伸光堂西部販売 森林文化協会

ご予約・お問い合わせはお気軽に

Tel0120-740-276

〒352-0011 埼玉県新座市野火止8-14-29

ページトップへ戻る