1月8日 兆戦のすゝめ 作家 真山仁さん

朝日新聞2018年1月3日4面:現実を見つめる勇気 未来のために 危うい財政小説で警鐘鳴らす -昨年、日本の財政危機を巡る小説「オペレーションZ」を出版されましたね。債務残高が1千兆円を超えても放置されていることへの問題意識があったのですか。「怖いものはみたくない。できたら通り過ぎてほしい。『見ざる』『聞かざる』『言わざる』の3ザルですよね。お上に、よきに計らってもらえばって思っている表れでしょうか。でも、そうしていくれたららくなことがなかったが、この20年ですよね」「特に東日本大震災の後、官僚やメディア、大学教授といったインテリに対して国民が嫌悪感をもってしまっていて、福島第一原発事故などに関して『だまされた』という感情がある。『もっと一生懸命言ってくれたら、気にしたのに』と思っている。本当は、スリーマイルもチェルノブイリの事故も隠されれてはいないのに」「政治家も、財務省をたたいていれば自分たちの責任が転嫁される、と考えているふしがある。官僚主義が嫌なら、政治家がもっと勉強して官僚を使いこなせばいいのに、それもできず、警鐘がきちんと鳴らされていない。だからこそ、目の前にあるものが恐怖であるということを伝えるのは、私の仕事だろうと思ったのです」
あと何年で破綻 ー「日本は破綻しない」と言う人もいますが。「リーマン・ショック後に雑誌の企画で、財政危機に陥った東欧に取材に行きました。そのとき、現地の政治家やジャーナリストから『なぜ、日本は破綻しないのか。借金の額はうちよりも何倍もあるのに』って質問されたのです。確かに、これはおかしな話なんだと思いました。日本の常識は、海外では非常識なことが多いですよね」「今、そこにある安全というのは、たいていもろいものです。専門家に詰めていくと、2020年の東京五輪・パラリンピック後が危ういとか言い始めている。しかも日本は経済規模が大き過ぎて、破綻をしたらIMF(国際通貨基金)にも他の国にも助けてもらえません。あと何年で爆発するのかは正確には分からないけれど、時限爆弾は動いている。財政問題のポイントは、危ないことは分かっているのに、誰も逃げようとしないことです」
ー小説ではまず、デマから生命保険会社で取り付け騒ぎが起こることで大量の国債を売却せざるを得なくなり、あわやデフォルトという事態に陥ります。「財政破綻って、なかなか一言で言い表せないのです。時限爆弾が爆発したところが書けない。次の日に誰か死んだり、どこかが壊れたりするかといったら、きっとそうはならない。1年ぐらい後にハイパーインフレになるなどして、大変なことになるのでしょう」「そういった危機をどうやったら伝えられるのか。生命保険は機関投資家として大量の国債を持っているし、身近でもあるので、現実感が出るかな、と考えました」
ひりひりと肌で ー小説ではなく、ノンフィクションで書いてもよかったのでは。「小説とノンフィクションの最大の違いは、読んでいる人が、その世界に入っていけるかどうか。小説なら読者の考え方や思いとは別に、小説家の思惑通りの世界へ連れて行かれてしまうわけです。『これはまずいよね』と現実にヒリヒリと肌で感じてもらうには、小説は紙の媒体では最良の方法だと思っています」「でもなかなか、実感として読者に届いていないと感じています。特に、一生懸命働いて家族を大切にしているのに、将来に漠然とした不安を抱えている普通の日本人に届かない」
ーどうしてでしょう。「日本人の頭の中はいまだに右肩上がりなんですよ。だから、現実と意識が隔たっている。我々は低成長ではなく下降しているのに、成長過程のルールが守られいる。農業も中小企業も補助金を出せばいいと思っている」
我々は没落貴族 ー現状を認識すれば、主人公の江島総理が言うように国家予算を半減させる必要があると。「お金が足りないのだから国民にも我慢してもらいましょうと。我々は没落貴族で、もう荘園はなく、ワンルームに住んでいて預金も封鎖されるかもしれないような状況なのです。小説で極端なことを書くことで『そこまで予算を削減するならば、増税してくれ』という国民の声を待っていたんですけどね・・」
ーでも実際は、増税を掲げると選挙に負けると政界で言われていますね。「そのことにも、ずっとひっかかっています。歳出削減や増税に反対するのは、現世での利益を追求する人たちなんですよね。でも財政の問題は、未来の話なのです。今の1億人で割るのではなく、これから生まれる3千万人ぐらいの人で負担することになる」「新聞のインタビューで、18歳の若者が『僕は増税する議員に投票する』と言っていました。借金を減らすために、我々は歳出削減や増税を言う政治家を探さなければならない。そういう政治家は『勇気のある』『格好よい人』のはずなのです」
「原発事故のときのように、財政問題でも『だまされた』とか『知らなかった』と言わせたくないのです。今を生きることは大切だけれど、人間は未来に何かを残すために生きています。最初に誰かが言わないと、誰も動かない。小説家として、自分たちの世代の責任として、真剣に伝え続けたいと思っています」
(聞き手・松浦祐子)

 

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