1月8日 サザエさんをさがして 鏡餅

朝日新聞2019年1月5日be3面:乾きひび割れる味わい深さ お恥ずかしいながらこの作品を最初に見た時、4コマ目の意味が分からなかった。「ちんもち」? 広辞苑には載っていた。「賃銭を取って餅をつくこと。また、その餅」とある。賃餅、なにか。明治30年ごろの東京を描いた「東京風俗志」(平出鏗二郎著)には、正月用の餅の注文に「餅屋はもとより、汁粉屋、菓子屋、米屋など、皆俄かに賃餅屋と化けて、これを引受く」とある。中には4.5人でせいろ、きね、臼など一切の道具を担いで町を回り、家の前で餅をつく商売もあったのだという。作品の餅屋のおじさんも、店先に貼り紙をして鏡餅の帽子をかぶり、道行く人にアピールしたのだろう。
正月以外でも餅を食べることはあるけれど、鏡餅は正月ならではのもの。円い鏡を模して形作ったことが名前の由来で、年神に供える。神棚や床の間のほかに、生活で大切な場所にも飾られた。私も幼い頃の記憶がある。昭和40年代のことだ。元日に祖父母の家へ行くと、座敷の床の間には三方に載った大きな鏡餅がでんと構えていた。台所と風呂場には小さな鏡餅が。こちらは半紙を敷いただけ、飾りもダイダイはなしで裏白のみ。飾ってから2日ほどしか経っていないのに、もう表面にはヒビが見えた。
「お正月なのに妙に地味」ち奇妙に思ったせいか、こうして書いていると、床の間の鏡餅よりしっかり覚えているのが不思議だ。かびない、ヒビも入らない、パック入りの鏡餅が出回ってきたのは、日本鏡餅組合によると、1972(昭和47)年ごろから。その後、鏡餅型の容器に個包装の餅を詰めた商品も発売された。いま、どれくらいの世帯で鏡餅を飾るのか。マーケティング会社「クレオ」(東京都)が昨年4月、既婚女性千人に行った年中行事に関する調査結果によると、昨年の正月に飾った人は30.8%。2014年よりも10㌽以上減っている。年代別では60代以上では半数が飾るが、若い世代ほど実施率は下がり、20、30代では20%未満。担当者は「なぜ飾るのか、電灯の意味が伝わりきっていないのでは」と指摘する。鏡餅の座する場所がないのも、退潮の一因なのだろう。床の間どころか畳のない家も増えている。テレビも薄型になり上に鏡餅を置きにくくなった。飾るにしても、小さめの商品が好まれると聞く。
地方によって違いがあるが、11日は鏡開き。餅を割って汁粉や雑煮に入れるほか、揚げることも。俳優の沢村貞子さんは、エッセー集「私の浅草」で、おふくろの味の一つとして「お正月の鏡餅は、小さく割って、よく干して、シンまでカラッと香ばしい揚げ餅にして、茶だんすの罐にいれてあった」と記した。向田邦子さんのドラマ「阿修羅のごとく」の初回「女正月」には鏡餅を揚げる場面があり、餅のひび割れに、主人公の姉妹たちが母親の荒れたかかとを思い出し、笑い転げる。乾いてひび割れるからこそ、味わい深い事柄もある。とはいえ、パックから個包装の餅を取り出す鏡開きになっても、餅はおいしくいただきたい。今週6面の料理コラム「肴ごはん」では、手軽で目先の変わった食べ方をご紹介。宣伝ではございますが、どうぞご覧下さいませ。(大村美香)
(4コマ漫画は朝日新聞の紙面に掲載しています)

 

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