1月5日 就農外国人 期待と懸念

東京新聞2017年12月30日1面:新特区制度の活用 全国11地域目指す 今月指針が決まった外国人の農業労働を国家戦略特区で解禁する新制度に関し、活用を目指す自治体が全国で少なくとも11地域に上ることが29日、本紙の調べで分かった。現行で外国人受け入れの窓口となる技能実習制度は国際協力を名目とするが、新制度は農家での露労働力の確保を目的とする。人手不足対策として各地で期待が高まるが、技能実習生が失踪するケースが増加しているほか、新制度で派遣労働の形態を導入することについての懸念も専門家から出ている。
政府は、特区の規制緩和項目に外国人の農業就労を追加し、今月15日に実施の指針をまとめた。既に別の事業で特区指定を受けている愛知県と沖縄県は、来年中の利用を目指している。これに加え、関東では茨城県、群馬県が農業での外国人活用を盛り込む特区提案を政府に提出した。ほかに長野県、鹿児島県など農業が盛んな県や、市町村でも秋田県大潟村や鳥取県境港市などが特区指定を申請している。政府は年明け以降、特区の追加指定の検討を進める。
新制度では、技能実習生ができない農産物の販売などを認めた。働ける期間は「通算3年」で、農閉期に帰国すればその期間は加算されず、収穫期の半年だけならば計6年の労働が可能だ。実習生は農家が直接雇うが、新制度は派遣会社が雇って農家に派遣し、労働者は複数の現場を移ることもできる。
技能実習生失踪 過去最高ペース 外国人の就労を巡るトラブルも多い。法務省によると技能実習生の失踪は今年6月までの半年で3205人に上り、前年の年間5050人を上回り過去最高のペースで増えている。厳しい労働環境になりがちな農業での失踪は建設業に次いで多い。雇用者の責任があいまいになる傾向がある派遣労働が状況を深刻化させるとの指摘もある。
2面:派遣参入利益優先の恐れ 農業での外国人の就労を国家戦略特区内で解禁する新制度がまとまり、多くの自治体が活用に意欲を示す。人手不足に悩む現場からの要請も強いが、外国人労働者受け入れの社会的環境が整わない中、労働者を雇う派遣会社の業界利益が優先されることにならないかなど問題も指摘されている。
切実 凍るような風が吹きすさぶ茨城県下妻市の畑。ベトナム人たちが黙々とハクサイの根に刃をいれていた。「外国人なしでは畑を維持できない」。同県結城市の農家、浜野公男さん(52)はベトナム人9人を「技能実習生」として雇う。3キロ前後のハクサイを手作業で刈り取る重労働のできる若者は見当たらず、外国人に頼らざるを得ないという。給与は月15万円前後。同県の最低賃金並みだが、実習生のレ・チュン・ハウさん(27)は「ベトナムでは月2.3万円しか稼げない。作業はつらいくない」とたどたどしい日本語で話す。
国内ではすでに2万4千人の外国人が農業で働く。ほとんどが技能実習生だが、日本で学んだ技術を母国で生かしてもらう本来の目的は薄れ、担い手不足の穴埋めに利用されているのが実態だ。新制度では外国人を労働力としてさらに活用しやすくなる。実習生ができなかった農作物の販売なども頼め、収穫時期など農繁期だけ雇うことも可能。茨城県も制度活用に名乗りを上げている。
トラブル 農業ではすでに技能実習生絡みのトラブルが目立つ。意志疎通もスムーズにいかないまま山間地で暮らす彼らの立場は弱い。残業代未払いなど不当行為は16年、実習生全体で202の実習先で確認され、農業・漁業が67と最も多い。低賃金の不満などから失踪する人も農業では1055人と、20人に1人がいなくなっている計算だ。さらに新制度では、農家が直接雇う実習制度に代わって、民間の人材派遣会社が外国人を雇い、手数料を取って農家に派遣する。労働の現場に雇い主がいない派遣労働は、労働者からすると、労働条件に不満があってもだれと交渉すればよいか不透明になりがちだ。実習生の支援団体「外国人技能実習生権利ネットワーク」の佐々木史朗氏は「外国人の権利を守る責任が一層あいまいとなる恐れがある」と語る。自治体など複数の行政機関の相乗りで作る監督機関が労働状況を巡視することになっているが、人員も確保されていない。
不透明 派遣会社のビジネスチャンスにもなる新制度。導入の経緯についての疑念も出ている。特区諮問会議のワーキンググループで検討が始まった一昨年から、規制官庁の法務省と厚生労働省は解禁に慎重な姿勢を貫いていた。ところが昨年10月、諮問会議の民間委員が連名で「議論の入り口すら入れていない」と圧力をかけると一転、昨年末の諮問会議で導入の方針が固まった。
委員の1人は派遣会社パソナグループの会長も務める竹中平蔵氏。安倍晋三首相とも親密で、民進、共産など野党からは「規制緩和でビジネスチャンスを得る人文が公然と諮問会議に参加しており、利益相反だ」と非難する声も上がっている。外国人就労問題に詳しい山脇康嗣弁護士も「手荒いプロセスで決まった新制度が前例となり、外国人労働者が他の分野へのなし崩し的に広がる可能性がある」と警告している。

朝日新聞ASAの伸光堂西部販売 森林文化協会

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