1月29日てんでんこ 奥尻から【20】

朝日新聞2018年1月20日3面:大好きな故郷で喫茶店を。海が見える高台で自慢の料理を出すオーベルジュを。 1993年の北海道南西沖地震で最も大きな被害を受けた奥尻町の青苗地区。慰霊碑「時空翔」の近くで、水野初枝(58)が喫茶店「カノン」を始めたのは3年前だ。オープンから間もなく、手作りのケーキが並ぶようになった。娘の禿(かむろ)あゆみ(27)が作る。禿は90年生まれで、地震の記憶はない。入学した稲穂小学校に同級生はいなかった。同い年の子がいたが、津波で亡くなった。全壊した校舎は、住民の熱意で再建されていた。
2003年3月、ひとりぼっちの卒業式は、108年余り続いた母校の閉会式と重なった。「復興のシンボル」だった小学校の閉校に、多くのメディアがやってきた。一度東京に出たが、3年で戻った。奥尻で暮らす宜希(34)と結婚。「育ててくれたみなさんに晴れ姿を見せたい」と、町民センターの体育館で披露宴を開いた。禿には、奥尻は「津波の島」ではなく、大好きな故郷だ。今年6月、町役場の近くに喫茶店を開く。「島の人が落ち着いて過ごせる場所をつくりたい」。長年の夢をかなえようとしている。昨年8月5日夕、いまは営業をやめているペンションのホールで札幌市から来た10人のグループが夕食をとっていた。
テーブルにはウニやアワビの料理、グラスには奥尻ワインと日本酒「奥尻」が注がれた。奥尻ワイナリー常務の菅川仁(35)がワインの特徴や味わいを説明し、シェフの和田勇人(39)が料理について語った。和田は高校まで島で過ごした。いまは札幌で日本料理「TAKU円山」のオーナーシェフだ。昨年のミシュランガイド北海道版で「一つ星」を獲得した。
14年夏から常連客らの奥尻ツアーを始めた。前年に島に行った客が料理への不満をもらしたのがきっかけだ。「だったらリベンジしましょう。僕が行きます」となった。平成の初期に起こった地震から25年。街の壊滅、復興バブル、漁業や観光業の衰退。和田は島の内外から見てきた。いずれは泊まって食事を楽しめる「オベルジュ」を海が見える高台に開きたい。キャンドルがともり、テーブルには奥尻の食材を使った自慢の料理、島での新たな挑戦を夢見る。(大久保泰)
「奥尻から」は終わります。次回は「首長たち」シリーズが始まります。

朝日新聞ASAの伸光堂西部販売 森林文化協会

ご予約・お問い合わせはお気軽に

Tel0120-740-276

〒352-0011 埼玉県新座市野火止8-14-29

ページトップへ戻る