1月26日 新卒 立ちはだかった不況

朝日新聞2019年1月20日4面:採用絞り込み 人も企業も翻弄 若者の就職活動は景気の波に翻弄されてきた。2008年9月の「リーマン・ショック」も、社会にはばたこうとする若者の前に壁となって立ちはだかった。企業は採用を絞り込んだ「後遺症」に苦しみ、いまや就活のあり方が変わりつつある。「やり直したい」転職決意  大阪府の男性(30)は昨秋、7年勤めた専門商社を退職して念願だった大手メーカーに移った。転職活動を本格的に始めてわずか1カ月。業界はまったく異なるが、正社員として経験を積んだ人材は引く手あまただった。うれしい半面、複雑な心境にもなった。「あのころの苦労は何だったんだろう」
男性が就活を始めたのは09年秋。リーマン危機から1ねん経ち、不況が深刻になってきていた。京都府立大学で学び、豪州に1年留学した経験もある。厳しさが増す就活とはいえ、「どこかに受かるだろう」と考えていた。だが、現実は違った。大手の化学や電機メーカーを中心に約40社も1次面接で落ちた。手当たりしだいに受け続け、ようやくつかんだのが前の会社だった。
社会人生活が始まったものの、いくら働いても残業代は出ない。同期社員の半数は数年で会社を去っていった。結婚して子ども3人に恵まれ。責任も加わるなか、マイホームの購入を機に転職を考えるようになった。「新卒のときに不況でなかったら、と思うこともある。もう一度やり直したい」。新しい職場では、年収が100万円近く上がった。得意の英語を生かした海外勤務を打診されているという。就活はいま、企業が新卒採用をとりやめたり採用数を大幅に減らしたりし、「内定切り」も門問題視された当時とは一変し、人手不足を背景に学生優位の「売り手市場」にある。リクルートワークス研究所の調べでは、19年春に卒業する大学生・大学院生に対する民間企業の求人倍率は1.88倍で、リーマン危機前の水準近くまで回復した。「30代前半の若者は、自己評価よりずっと『売れる』状態が続いている」。人材サービス会社「エン・ジャパン」の石原良太・人材紹介事業部マネージャーは言う。リーマン危機で辛酢をなめた当時の就活生たちが、こうした年代にほぼ重なる。かつて採用を絞った企業が、その穴埋めに追われている。
大企業ブランド揺らぐ パナソニックはリーマン危機で業績が低迷し、早期対処を募ったり、新卒大学生の採用を絞ったりした。上位の常連だった就職人気ランキングは後退。いまもリーマンの影響を引きずっている。安泰とされた大企業ですら、働き続けられるかどうかは不透明になりつつある。この間、自分の能力をすぐに発揮しやすいベンチャーや海外企業を選ぶ若者が目立つようになった。
「新卒は将来の幹部候補。契機によって採用人数を増減させるのはおかしかった」。パナソニックで採用を担う高橋大輔部長は振り返る。15年度には採用数がリーマン危機前後の水準に近づいたが、「何もしなくても優秀な学生が来てくれる時代は終わった」。同社は、ネットに強い広告会社のスパイスボックスと組み、就活生が参考にするインターネットサイトで働きやすさを伝えるなど、PRに余念がない。中途採用を強化するようになり、退社した社員の「出戻り」も積極的に受け入れる。中途新卒を上回る見通しだ。
リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所は、志望企業に入りながらも転職した若者ら約500人を調査した。理由を分析すると「どの会社でも通用する能力を身につけるため」という傾向がわかった。古野庸一所長は「若い人ほど、一つの会社にとどまることが危険だと敏感になっている」とみる。この10年で、人材育成や組織のあり方を見直す動きも進んだ。
マツダはリーマン危機後、世界的な不況と急激な円高の直撃を受け、新卒採用を抑えざるを得なくなった。そこで、技術系の新人を入社後すぐ各地の工場や研究施設などの職場に配属し、専門性を高める従来のやり方を変えた。まず全員を研究開発部門に集め、3年かけて車の開発や設計を経験させることにした。ほかの職場への配属は遅れるが、最終製品のイメージを共有することを優先。配属先の役割を認識しやすくし、少人数でも全体の車づくりをスムーズに進める体制づくりをねらった。「人が潤沢でない企業として選んだ戦い方だ」(人事室の高村勝彦副室長)。限られた人員で組織の力をいかに発揮するか。企業はいまも格闘を続ける。

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