1月25日 健康経営 消えるたばこ

日本経済新聞2019年1月19日夕刊1面:人手不足や働き方改革・・社内禁煙に拍車 たばこを吸わない人に煙たがれ、オフィスから愛煙家の姿は減る一方だ。最近では勤務時間内の仕事の効率を高める働き方改革や、人手不足の中で健康な人材を確保する動きが、社内の全面禁煙に拍車をかけている。顧客や投資家の目も厳しく、仕事中の「ちょっと一服」はますます肩身が狭いようだ。
「営業成績伸びた」 「禁煙を始めて支店の営業成績が伸びました」。中堅人材サービス、ジェイエイシーリクルートメントの小浜剛・北関東支店長(36)の言葉には勢いがある。同社は2018年4月から国内外のグループで、社内はもちろんプライベートでも従業員に禁煙を求めるようにした。北関東支店では3分の2を占めた喫煙者が席を外して紫煙をくゆらすことがなくなり、オフィスでの会話が増えた。必然的に営業先の情報交換が密になり、ノウハウも共有されやすい。
一般的に、たばこを吸う人には「喫煙所での何気ない話が仕事のアイデアにつながる」との意見がある。だが自身もたばこをやめた小浜さんは「喫煙所の限られたメンバーで話すより、大人数での会話の方が生産性が上がる」と言い切る。セイコーエプソンでは18年度に、勤務時間中の喫煙禁止をそれまでの週2日からすべて日に広げた。「人手不足の中で社員には健康で長く働いてほしい」(総務部)というのが狙いだ。昼休みにはたばこを吸える敷地内の喫煙所も、将来はなくしたい考えだ。
今のところ社内の反応は二分されている。直近のアンケートでは、たばこを吸う従業員の3~4割が喫煙所をなくすことを認める一方で「喫煙者をいじめている」と率直な声も上がる。全面禁煙に不満な従業員もおり、企業はストレス解消に気を配る。ジェイエイシーは月4000円を上限にスポーツジムの費用を補助、セイコーエプソンは休憩時間の運動を呼びかけている。たばこを吸った場合の罰則までは定めていないことが多いようだ。
喫煙者は採用せず だが今や、たばこを吸う人は採用しない企業も珍しくない。人工知能(AI)を開発するHEROZもその一つ。「社員の多くはきつい、帰れない、給料が安い、3K職業と思われているシステムエンジニア。イメージを払拭したい」(高橋知裕代表取締役)。喫煙者という理由で採用を断ったこともある。厚生労働省の17年の調査では、屋外を含めた敷地内の全面禁煙に取り組む事業所は全体の14%。「建物内禁煙」も35%に上り、屋内でたばこを吸えない事業所は国内の半数に迫る。こうなると対応が遅れている企業には危機感すらあるようだ。オリンパスでは2年後をメドに社内の喫煙スペースをなくす。同社は医療用の内視鏡の世界大手。笹宏行社長は「肺がんを調べる医療機器メーカーとして社内禁煙は必須」ときっぱり。
顧客である病院関係者の視線を意識する。同社で海外営業を担当する西橋和寛さん(59)は30年来の喫煙と昨秋に決別した。「社内の取り組みをきっかけに念願の禁煙ができました」と安堵の表情だ。たばこの有無は、投資家の評価材料にもなりつつある。経済産業省と東京証券取引所が、社員の健康管理に積極的な企業を選ぶ「健康経営銘柄」は、19年から新たに分煙の取り組みが審査の対象になる。ドアなどで周囲から閉ざされた喫煙室があることが条件だ。
喫煙人口、10年で3割減 日本たばこ産業(JT)の調査によると、国内の2018年の喫煙人口は1880万人と10年前に比べて約3割減った。喫煙率も18%と約8㌽下がっている。健康志向に加えて相次ぐたばこ増税を受けた値上げや、全面禁煙の飲食店・商業施設が増えたことが理由とみられる。20年の東京五輪・パラリンピックに向けて、東京都では飲食店などを禁煙とする受動喫煙防止条例が昨年に成立した。たばこを吸う人を取り巻く環境は厳しくなる。最近では周囲に配慮して、紙巻きたばこに比べ煙や臭いが少ない加熱式たばこを吸う人も増えている。森ビル(東京・港)は18年秋、大型オフィスビル「愛宕グリーンヒルズMORIタワー」に加熱式たばこだけが吸える喫煙室を設けた。「テナント企業の健康経営や働き方改革をバックアップする」(同社)狙いだ。(下村凛太郎)

 

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