1月24日 サザエさんをさがして

朝日新聞2019年1月19日be3面:豪華列車の悦楽 醍醐味は一期一会 旅好きだが落ち着きのない質でじっと座っているのが苦手だ。狭い飛行機では隣席に気兼ねで立つこともままらなず、うわあと叫びたくなる。その点、列車の旅はいい。自由にうろうろ歩き回れる。やはり旅好きだった長谷川町子さんの漫画「サザエさん」にも列車がしばしば登場する。1950年5月の4コマでは、巡回が来れば車掌の検札と思うサザエとマスオがその都度切符を出すのだが、清掃だったり、物売りだったり。終戦から5年、輸送と共に「快適」を追求する余裕も出た鉄道に「ようすがかわったネ」と話す二人は、近年、相次ぎ登場した桁違いに豪華な観光列車に乗れば、腰を抜かすのではないだろうか。一昨年秋、そんな列車の一つでJR横浜駅と伊豆急下田駅を結ぶ「ザ・ロイヤルエクスプレス」に乗った。食事がお重で出る2万5千円のゴールドクラス。コース料理で3万5千円のプラチナクラスもあるのだが、私の場合、お重で大正解。何しろ乗れば降りるまで、「飲み放題」なのだから。2段重にはマッシュルームバーガー、ローストビーフの味噌漬けなど著名シェフ監修の酒肴になるご馳走がぎっしり。窓に向き合うテーブル席で流れる景色を眺めつつ、お重をつつきワイングラスを傾け、自分のペースで楽しめるのだから、酒好きには天国だ。コース料理ではこうはいかない、食後はサロンで生演奏をしてくれたバイオリニストの大迫淳英氏らとの会話を楽しみ、途中の停車駅では駅員や地元の方々の大歓迎を受け、名産品のプレゼントも。短時間だが言葉を交わし、笑い合った地元の方が、列車が見えなくなるまでホームから乗り出すように手を振ってくれる姿を見れば、人生のはるか彼方に置いてきた出会いと別れの刻が切なく甦り、目頭が熱くなってくる。「それでいいです。醍醐味は出会いなのですから」と話すのは、最高峰の寝台付きクルーズ列車「ななつ星」「四季島」「瑞風」すべてに乗った鉄道ジャーナリストの中嶋茂夫さん(51)だ。
1泊2日で20万円台~と料金も最高峰だが「名店シェフ監修の料理に飲み放題の高級酒、極上のクルーのもてなし。列車で体験する非日常は、僕には等価の海外旅行より満足感がある」と言い切る。「さらには価値観を共有する乗客とのサロンでの語らい、列車を郷土の誇りと迎えてくれる地元の方とのふれ合い。無数の一期一会を重ね、旅が特別なものになる。それを旅情というのでしょうね」
2007年開業をめざすリニア中央新幹線は最高時速500㌔。大半は地下やトンネルで、地上を走るわずかな区間も騒音や振動対策の壁や屋根で覆われた、品川ー名古屋間を40分で結ぶ。すごく便利で、ありがたい。だが宙に浮き闇を移動し、ドアが開けば遠い土地、のリニアは「旅」というより、少しばかり時間のかかる、ドラえもんの「どこでもドア」に近い感覚ではなかろうか。車窓の富士も浜名湖もおかずにできぬ駅弁は、ただ空腹を満たすための手段になりはせぬだろうか。
速度と効率に、「旅情」はどうも相性が悪い。列車の概念すら覆しそうなリニアの時代を目前にした豪華列車の盛況は、かつて見知らぬ同士が袖振り合った「古き良き」鉄道旅の薄れゆく記憶を惜しむ、「時代」の補完作用のように思えてならない。(西本ゆか)*写真は東京・新宿から長野に向かう「お座敷列車」・畳敷きの車内は同乗した三橋美智也さんの歌やのど自慢大会でに大ぎわい=1979年

朝日新聞ASAの伸光堂西部販売 森林文化協会

ご予約・お問い合わせはお気軽に

Tel0120-740-276

〒352-0011 埼玉県新座市野火止8-14-29

ページトップへ戻る