1月18日 ザ・コラム 秋山訓子(編集員)

朝日新聞2018年1月11日18面:政治家の世襲 2世のはくゲタ担う葛藤 一年で一番、和服姿が見られる季節だ。お正月に成人式、この週末には、茶道で新年最初に茶事を行う「初釜」に出かける人もいるだろう。
私も、数年前からほんのちょっぴり茶道をかじっている。素人の観察だが、茶道と政治は似ていると思うことが多い。もとより千家流茶道の祖、千利休は政治に影響力があったし、現代の政治家にも中曽根康弘元首相など茶をたしなむ人はいる。茶道も政治も様式美を大切にする。といっても微妙に違って、茶道の様式美はあくまでも合理的だが、政治はそうでもない。たとえば、茶道では体を傾けたまま所作を続けることがある。見た目にも美しいのに加え、次の動きに入りやすいからだ。一方、政治は国会の採決で一人一人壇上で投票するやり方がある。参院は押しボタン式も導入され、そのほうが合理的で効率的だろうが、衆院は採用していない。伝統と様式を大切にしているからのように思える。
茶道も政治も「世襲」を重じる点も似ている。茶道は千利休の昔から、家元は連綿と世襲で受け継がれている。幼い頃から雰囲気や所作、気構えを自然に学べるからだと、ある師範が教えてくれた。
一方政治は世襲と決まっているわけではない。が、朝日新聞の調べによると、昨年の総選挙で自民の世襲議員は獲得議席の29%にあたる83人だという。安倍晋三氏をはじめ、ここ4代の自民党の首相も2世や3世だ。ちょっと多すぎないか。もちろん、世襲議員にだって立派で見識のある人はたくさんいる。でもそれにしたってーと思っていたら、こんな本が出た。「小泉進次郎と福田達夫」。自民党の農林部会の部会長と代理として農政改革を引っ張った2人が、農業の話のみならず、世襲や家族のことを率直に語っている。そういえば私は、「2世」の人々に正面から世襲について聞いたことがなかったかもしれない。片方の当事者に会いに行った。
福田達夫氏(50)は、父・康夫も祖父・赳夫氏も首相。自分は政治家になる気は皆無で、20歳になった時に父からも「政治家は継ぐ仕事じゃない」と言われた。大手商社に就職し、楽しく働いていた。
20代のころ、地元活動に忙殺される母親を助けたいと、あいさつ回りをしたことがある。古くからの支持者の家に行ったら、神棚をはさんで天皇陛下と祖父の写真が飾ってあった。あいさつを終えて辞し、振り向くと老齢の女性が両手を合わせて自分の後ろ姿を拝んでいた。「強烈に覚えています」
それでも政治家になるつもりはゼロだった。「だって、人間のいろんな姿を見るんです。祖父の葬式の時に政治家の人たちが親族よりも前に並んで、参列の方々にあいさつをしている。祖父にはいい顔をしている人が、東京の孫の僕には手のひらを返したような態度をとる。人間の裏表を見るというか。政治家ってこんな人たちなんだ、こういう人たちと一緒になりたくない、って」だが、父が官房長官になり、秘書官が病に倒れ、ピンチヒッターのつもりで秘書官となり、そうこうするうちに父親が総理になって‥。結局自分も政治家になった。
世襲についてどう思うかと問うと「民主主義から考えたらおかしいですよ」。自分もそうですよね? 「高げたをはかせてもらっているので、その分結果を出して当たり前だと思っています」。即答した。
小泉進次郎氏も本のなかで、初出馬の時に猛烈な世襲批判があったと話している。「僕は、生まれてきちゃいけなかったのかなとか、そういったことを考えるくらい、落ち込みました」「何かかったら、やっぱり世襲はダメなんだって言われるのは目に見えていますから、その緊張感というものもありました」
私は思った。彼らはもちろん恵まれている。でも、「2世」にだって悲しみも悩みも葛藤もある。私はそれに目を向けようとせず、思考停止に陥って、ステレオタイプで見ていたかもしれない。彼らを選んでいるのは私たちだ。政治家は私たちの鏡だし、彼らを考えることで、自分たちの姿が見えてくる。

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