1月17日 寂聴 残された日々

朝日新聞2018年1月11日35面:31朝日賞受賞騒ぎ 2017(平成29)年の暮れ、朝日新聞社から17年度の朝日賞を私に下さるという通知があった。もう目の前に正月が迫っている。年と共に感動の鈍くなりつつある95歳の死にぞこない老婆の私は、曲がりかけている腰も抜かさんばかりに仰天した。朝日賞は澤地久枝さんが08年度に受賞された時、お祝い人の一人として出席しているので、その盛大だは今でも、めにありありと思い浮かべることができる。広い舞台には金屏風が張り巡らされ、受賞者はそこで、大きなトロフィーと賞金を受ける。その賞金が何と、500万円というのである。せいぜい、100万~200万円が、日本の賞金の相場ではないだろうか。それだけでも羨ましいのが人情であろう。
私は自分よりうんと若い澤地さんや上野千鶴子さんがこの賞を受賞されたのを、心から祝福していた。2人とも優れた女性で、今も「おひとりさま」で、自分の信念を貫く生き方を示している。この優れた可愛い女性たちが、私の年まで生きのびたら、どういう時代が来ているのだろうか? 結婚したがらない有能な女性たちが増え、旧来の道徳のようなものをけちらし、結婚しないで子供を産み、自分の能力と責任で育てていく。そんな時代がくれば、家庭は当然なくなっていく。人の不倫で騒ぐこともなれけば、嫁姑の仲の悪さで悩まされる亭主もいなくなる。
男はひたすら自分の能力をみがき、魅力をいや増やす教養を身につければ、女に不自由しない。個人の生活が快適なら、よその国と戦争などしようとは思わないだろう。この賞の決定は、元旦の新聞に発表するので、それまでは口外しないでくれという話だったが、嬉しくてたまらない超おしべりの私は、どうがまんしても、黙っていられず、「あのね、これ、ぜったい秘密よ。元旦までは内緒にしてね。朝日賞もらうのよ」と、人に会えば言いたくなるし、閑が出来れば電話をかけまくりたくなる。近頃とみに貫録をつけてきた66歳も私より若い秘書が、その都度飛んできて、私を叱る。
「またっ! 何度言ったらわかるんですか? 朝日の人がいったでしょう。元旦まではナイショにしてほしいって! そんなに誰にでもしゃべって、どうするんです」「だって。ぜったい他言しないような相手にしかしゃべってないじゃないの」「おしゃべりのセンセのお友だちだもの、皆さん超おしゃべりですよ」
「へん。あんたなんか、賞なんてまだ一つももらってないから、そんなことをいうのよ。私なんかもう片手の指で数えきれないほど、賞もらってたって、やっぱり、その度、舞い上がるほど嬉しいのよ。文化勲章くれた時は、誰もいない所でとんぼ返りを十返したら、腰をねじって、あんまにかかって大騒ぎよ」「それって、いくつの年ですか」「ええと、たしか84よ」「それから10年もたっているのに、ちっとも成長していない。朝日賞の選考委員に言いつけてやろうかな」
何をっ! と、彼女にいどみかかった私は、もろにそこに片手で倒された。

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