1月15日 私の東京物語 安藤優子2

東京新聞2018年1月9日24面:ハレの日の浅草 東京の下町に縁の深い父と母が結婚し、私たち三人きょうだいが生まれたわけだが、とりわけ生まれ育った浜町をはじめとして向島や浅草までのエリアをこよなく愛してやまないのが父であった。これも伝聞でしかないのでどこまで本当かわからないが、父が育った浜町の家は黑塀の向こうから「チントンシャン」とお三味線の音がもれ聞こえてくる芸者置き屋の隣だったそうだ。
三つ子の魂百までとでもいうのか、ちちは向島の花街に出かけることを「人生でもっとも粋なこと」と心得、私と九つ離れた姉が生まれたときには、有頂天のあまりまだ赤ん坊の姉を料理屋に連れて行ってみせびらかしたという。そんな父が家族を連れて出かける先は決まって浅草であった。もちろん大正生まれの父が熱心なイクメンのはずもなく、子どもを連れて出かけるのは年に数回だったので、私たちにとってはそんな外出は特別なハレの日であった。
にもかかわらず、行く先は毎度同じ。もちろん浅草だって嬉しいのだけれど、父は頑なにコースを変えようとしない。まずは老舗の釜めし屋さんのお座敷へ。子どもにとって「五目」にするか「えび」釜めしにするかはけっこう大きな決断だった。食後はこれまた近くのフルーツパーラーに行ってパフェにするかサンデーにするかで悩んだ。そんなわけで私たちはかなり大きくなるまで東京で一番の繁華街は浅草であると信じて疑わなかった。(ニュースキャスター)

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