1月16日 サザエさんをさがして おでん

朝日新聞2019年1月12日be3面:マスオが盛り上がるわけ 磯野家の54年前の夕食は、おでんと卵焼きだ。サザエさんから分けてもらっても食べようとしない迷子のシャム猫や当たり前の献立といった様子の磯野家の面々に対し、なぜかマスオだけは盛り上がっている。当時放送されたテレビのコメディー時代劇『てなもんや三度笠』のお気楽な曲の一節♪スチャラカチャンチャンーを口ずさみ、なんとも能天気である。奈良県香芝市の伝承料理研究家、奥村彪生さん(81)は短大教授だった1997年、『サザエさん』で描かれた料理を学生たちと再現した。食の近代化を探る研究だ。マスオや波平が帰宅途中に寄る料理店の種類を調べた結果、おでん屋が最も多く、相当おでん好きとみた。サザエが作る料理の種類の少なさも指摘した。おでんやカレーライスなど5種類の献立表をもとに、サイコロを振って夕食をチャーハンに決め、「レパートリーがすくなすぎる 主婦のタイマンだ!!」とカツオに避難されたことも。マスオは、そんな妻がおでんに卵焼きまで付けてくれたことに感動したのかもしれない。
サザエが献立の第一に挙げたおでん。奥村さんによると、室町時代に生まれた豆腐田楽を江戸後期に醤油だしで煮込むようになり、「お」を付けたのがその名の由来。関東大震災の後、東京の料理人が関西で汁気の多いおでんの調理法を広めて「関東煮」として浸透した。おでん種の「コロ」(鯨の皮)は商業捕鯨禁止への国際的な流れから入手しにくくなり、完済では牛すじが代わりに使われるようになったという。牛すじは今や全国区の人気。東西の食文化がおでん鍋の中で混ざり合う。
そのコロを出す店がある。大阪・道頓堀の「たこ梅」本店。創業は江戸後期の1944年で、現存のおでん屋では最古だという。奥村さんのお薦めは「さえずり」(鯨の舌)。かむ音が小鳥のさえずりに似ているとされ、命名された。だしは鯨肉を基本にカツオ節を加える。「初代から使ってきたさえずりも、だしに欠かせません」と5代目の岡田哲生さん(52)。3代目は大阪空襲の際、だしを持って逃げたという。たこ梅のさえずりは独特の味と食感。常連客だった大阪出身の作家で健啖家、開高健(1930~89)は小説『新しい天体』で店名を出してこう書いた。<舌をバカにさせない味である。酒を邪魔しない味である。御先祖様の味である。クジラの舌や根や先端などの部分によって組織がそれぞれ異なるらしく、シコシコしたの、クニャクニャしたの、やや固い噛みきりやすいの、とろとろになったの、香ばしいの、焦げ身のあるのなどと、串の一本一本がまことに小憎く複雑であって、ひときれひときれがたのしみである>。実に、おでん種の真骨頂である。
紀文食品は「紀文・鍋白書2018」の「昨年食べた鍋料理アンケート」で、おでんが19年連続の1位になったと発表した。広報部の熊谷文利さん(59)に四コマ漫画を見せると、「屋台のおでんが家庭料理として定着した時代。『おでん教室』の啓発活動や全国物流の発達の時期とほぼ重なります」。おでんと卵焼きが別に描かれた点にも触れ、「今では、だし巻き卵も工夫を重ねておでん種になっています」と話す。進化を続ける国民食のおでんに、マスオはさらに気分を高揚させるに違いない。(辻岡大助)

 

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