1月1日 未来へつなげ高校野球 タレント萩本欽一さん

朝日新聞2017年12月27日17面:はみ出す勇気欲しいね 新しい物語 生まれてこないかな 高校生って子供のようにかわいい子もいれば、オッサンのような大人もいる。その両面を備えた不完全なところが魅力だよ。でもテレビでみる高校球児のインタビューでは答えがみんな一緒。「頑張ります」や、「応援よろしくお願いします」が多くて、感情が表に出てこないだよね。例えば出られなかった子も含めて負けたチームの5人に客席に向かってマイク持たせてしゃべらせたらどうか。「俺、打てなかったんだ。情けねえなあ」とか自分の言葉で。お客さんも一緒に喜んだり、悲しんだり、共感してくれるよ。そうすると選手もまた「応援してくれる人にために」と頑張れる。
そう思うのは、僕がつくった茨城ゴールデンゴールズというクラブチームでの経験が大きい。お客さんが一番喜ぶのはアドリブ。つまり予想していないことが起きることだった。チームを持って3年目、優勝した全日本クラブ野球選手権でのこと。九回裏に逆転した試合があったの。2死満塁。打ったのは東大野球部にいた子。母子家庭で、しっかり者の母親に育てられた。「おまえ下手だけど、母ちゃんなら打たしてくれる。母ちゃん、よろしくって打席で言いなさい」と送り出した。「(出身の)熊本はどっち方面ですか」っていうから、「ばかやろう、空見たら、つながっているよ」と。ベンチでは俺が「ランナーがみんなかえってくる。拍手する用意して」って。
あいつ、空をみてつぶやいていたな。そして打ったんだよ。逆転勝ちにつなげた。野球って「運」だと思う。人と人のつながりに「運」はついてくる。関わる人が多いほど、特別な「運」になる。それに高校野球がいいのは、負けても褒められるところ。プロにはないドラマが生まれるよね。昔、定時制の軟式高校大会を番組で取り上げた。9人しかいないチームの1人が骨折しちゃった。「もういいよ」って周りが言っても、首を縦に振らない。仲間に抱えられ、ケンケンしながら二塁の守備位置について。相手もそこには打ってこないんだな。試合は負けて、その子は救急車。みんなが拍手して見送った。泣けたね。
高校野球はあの泥臭いところが良くて、あれやっちゃいけない、これやっちゃいけないとみんな思いがち。はみ出す勇気が欲しいね。みんな甲子園の砂を持ち帰るでしょ。誰かが最初にやった。1人の選手の勇気。それをとがめなかった大人も立派だよね。ただね、ずっとあれをマネしているのは悲しいよ。新しい物語、生まれてこないかな。(構成・有田憲一)

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