5月11日 老後の資金 投資次第?

朝日新聞2019年5月9日11面:人生100年時代を迎えた日本。長引く低金利で、老後の資金は預貯金だけではまかなえなくなる、とする意見も目立ってきた。高齢者も投資が不可欠な社会がやって来るのだろうか。 若い時からこつこつと 三田紀房さん漫画家 1958年生まれ。30歳で漫画デビュー。週刊誌で「ドラゴン桜2」と「アルキメデスの大戦」を掲載中。 個人的な見解ですが、日本人の投資に関する一般的な知識は、中学1年生ぐらいだと思います。学校で投資について学ぶ機会がほとんどないからです。僕は投資をテーマにした漫画「インベスターZ」の主人公を中1にしました。彼が私立学園にある闇の投資部に入って、が付こうの運営費をグローバル投資で稼ぎ出していきます。読み進むにつれて、読者はいつの間にか投資や経済の知識を学べるようにしました。
漫画を描きながら僕自身、投資について多くのことを学びました。世界の平均株価は1971年から2015年までの45年間で16倍になっています。株価は超長期で見れば上がるものです。数々の金融危機はありましたが、世界経済は復活してきました。投資とは、こつこつ時間をかけて積み上げるものです。僕は講演で「できれば、10代から投資を始めた方がよい」と助言します。成功している投資家の多くは、若い時から投資を始めています。投資をすると、経済を長期的に、広い視野で見ることができるようになります。漫画の主な読者層である20~40代のサラリーマンは今後、大きく賃金が増える見込みはなく、退職後をまかなう財産も自己責任で築き上げなければなりません。バブルの崩壊と金利の低迷で銀行に預けていれば、お金が増えるという時代は終わりました。だから、僕はなるべく早く投資を始めるべきだというメッセージを漫画に込めました。
金融庁は高齢者の金融資産を貯蓄から投資に移行するように促していますが、その際に必要なのは投資全般に対する知識でしょう。いま株を保有する高齢者の多くは、証券会社に運用を丸投げしています。株価の変動をチェックし、なぜ動いたのかを新聞記事などを読んで自分なりに分析するなど、もっと主体的に投資と向き合うべきです。集中力も高まるし、経済を学ぶ姿勢が若さを保つ活力にもなると思います。「喰わず嫌い」で投資を敬遠している高齢者も多い。いまは積み立て型など少額から投資できる金融商品も増えているほか、銀行と証券会社の支店が一緒になった店舗も増えています。まずは相談してみるのはどうでしょう。
お勧めできるのは金への投資です。金貨などグラム単位で買えるうえ、価格も割と安定している。手で触れることができて安心感もあります。ただ、基本的に僕は経験のない高齢者にはあまり投資はお勧めできません。財産をふやそうと、ついつい欲をかいてしまうからです。高齢者の投資は、「増えればもうけもの」くらいの鷹揚な気持ちでするのがベストです。(聞き手・日浦統)
「やらない」が身を守る 萩原博子さん 経済ジャーナリスト 1954年生まれ。経済評論家事務所での勤務を経て82年に独立。「年金だけでも暮らせます」など著書多数。 銀行や郵便局の窓口で勧められるがままに投資に手を出し、多くの人が損をしています。金融機関は投資のメリットばかり強調してデメリットの話はほとんどしないし、自分で金融の知識を身につけるのはものすごく難しい。若い人なら少しくらい損をしても自分で稼ぐ力がありますが、高齢者は退職して稼ぐ力がなくなると取り戻せません。身を守る方法はたった一つ、やらないってことなんですよ。今、収益悪化に苦しむ金融機関が、手数料を稼げる投資商品を血眼になって売っています。そんなところに素人が手を出すのは、カモがネギを背負って鍋に飛び込んでいくようなものです。
特に狙われているのが高齢者です。日本の個人金融資産約1700兆円のうち、60歳以上の高齢者の保有割合は6割を占めます。退職金も含めて潤沢な資産があり、なおかつ投資に疎い高齢者がターゲットになっているのです。よく年配の方が、銀行などの窓口で投資信託を勧められていますね。窓口で販売している商品は手数料が年3%前後になるものも多い。では仮に1千万円の投資信託を買ったとして、運用益も運用損もないまま25年経ったらどうなると思いますか。その1千万円は、500万円以下に目減りしてしまいます。なぜならその間ずっと、3%前後の手数料を引かれ続けるからです。つまり、勝つ確率より負ける確率の方が髙いんです。
本当にひどいことになっているのが、毎月一定の分配金が出るタイプの投資信託です。「年金代わりになる」と言われて退職金をつぎ込んだら、運用益では分配金が出せず、元本が取り崩されて振り込まれていただけだった、という事例が後を絶ちません。日本はまだデフレを脱却していません。今やるべきは「借金返して現金増やせ」。それで財産が守れるのあと思うかもしれませんが、モノの値段が下がるデフレでは、現金の価値が相対的に上がります。しっかり現金を持つべきです。私がよく言うのは、50歳時点で借金と貯蓄がプラスマイナスゼロになることを目標にすること。年金制度への不信感から老後を不安に思う人も多いのですが、住宅ローンの返済が終わり、子どもの学費もかからなくなれば、退職金と年金でなんとかやっていけます。年を取れば生活も変わりますから、若い頃にようにお金を使わなくなります。老後を心配して投資するくらいなら、インターネットを勉強して使いこなせるようになった方がよっぱどいい。より安い商品を探して買えるし、同じ趣味の人ともつながることができます。その方が、投資するより人生100倍も有意義になるんじゃないかと思いますよ。(聞き手・伊藤舞虹)
まず企業がお金回して 大沢真理さん 元東京大学教授 1953年生まれ。98年から今年3月まで東大社会科学研究所教授。専門は社会保障論。共著に「社会への投資」。 日本の高齢者は恵まれている。そう思っている人は多いですが、全く誤解です。バブル崩壊後、正規職につけないまま苦しい生活を続けるロスト・ジェネレーションには「年金をもらえるだけで幸せな生活」と映るかもしれません。しかし、「豊かな高齢者」はほんの一握りです。所得格差はむしろ高齢者間の方が現役世代よりも大きい。社会保障費を抑えようとした政府が「豊かな高齢者」のイメージを吹聴したために、貧しい高齢者が見えにくくなってしまったのです。海外と比べて日本の高齢者が貧しいのは、データから明らかです。65歳超の貧困率は約20%で、OECD(経済協力開発機構)36カ国でも高い部類です。単身高齢者の女性に限れば50%前後と、主要国で群を抜く水準です。こうした高齢女性の貧困を生んでいるのが「男性稼ぎ主型」の年金制度です。夫が生きて働いている間は余裕があるが、先立たれた途端、夫の勤労収入も基礎年金もなくなり、遺族年金だけになる。
給付水準も不十分です。退職前に相応の金融資産を確保しなければ、年金だけで余裕がある生活を送るのは無理で働き続けなければなりません。スウェーデンやイタリアには年金額が生活保護相当額より低い場合、税金で補填する最低保障の仕組みがありますが、日本にはありません。金利がもっと高ければ、高齢者が資金運用に頭を悩ますことはありませんでした。その点で政府・日本銀行の低金利政策が長期化したのは痛手です。普通預金は夜間休日のATM手数料を考慮すれば、実質マイナス金利なのです。金融庁は預貯金に偏っている金融資産を投資へと回すことで、利回りを高めようという狙いですが、罪作りではないでしょうか。
いま株価が好調なのは、あくまで年金積立金と日銀の株式購入によるものです。もし続かなくなれば、大暴落もありえる。高リターンの金融商品は当然、リスクも高い。資産運用をあおるのは、高齢者にリスクがしわ寄せされるだけです。金融機関は高齢者向けに低リスク低リターンの金融商品を開発すべきです。高齢者の資産が預貯金に偏っているから経済にお金が回らないとする意見もありますが、金融機関が産業融資をしないことが問題です。審査能力を磨き、担保がなくても成長しそうな企業に融資するようになれば、おのずとお金は回っていくはずです。最近の日本企業は国内で人やモノに投資せず、内部留保を現金でためていると批判されています。政府や日銀にはまず金融機関や企業に意識改革を促して、お金のパイプの詰まりを解消することが求められていると思います。(聞き手・日浦統)

 

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